ポーランドでサムライブルー再び、Imagine Cup 2010開幕Imagine Cup 2010 Report

Microsoftが毎年開催しているグローバルITコンペティション「Imagine Cup」は、テクノロジーのワールドカップだ。ポーランドで開催中の本大会には、日本の若きサムライブルーも“世界”を一変させようと意気込んでいる。

» 2010年07月05日 00時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
ポーランドはワルシャワで開催されているImagine Cup 2010。ここから世界を変えるイノベーションが今年も生まれようとしている

 Microsoftが世界各地で毎年開催しているImagine Cupという学生向けのグローバルなITコンペティションをご存じだろうか。今回で8回目となる同大会は、70カ国以上の国と地域から30万人以上の学生が参加しており、今年の開催地はポーランド共和国(ポーランド)だ。

 グローバルなITコンペティションという軸そのものは変わっていないが、近年になって「ITを活用して国連ミレニアム開発目標を達成する」という共通テーマが設定されたImagine Cup。国連ミレニアム開発目標とは、21世紀における国際社会の目標を指し、「極度の貧困と飢餓の撲滅」「普遍的な初等教育の達成」「ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上」など8つの目標が存在する。分かりやすくいえば、社会問題の解決にも関心の幅を広げて開催される世界規模のITコンペティションがMicrosoftのImagine Cupである。

 そんなImagine Cup 2010は「ソフトウェアデザイン」「組み込み開発」「ゲーム開発」「デジタルメディア」「ITチャレンジ」の全5部門が設けられているが、日本から世界大会に進むことができたのは、ソフトウェアデザイン部門と組み込み開発部門にそれぞれ1チーム。組み込み開発部門については、@IT MONOistで取り上げるため、ITnemdiaエンタープライズでは、第1回大会から続く伝統的かつもっとも過酷なソフトウェアデザイン部門についてレポートしていく。

 ここで時間の針を少し戻し、ソフトウェアデザイン部門の日本代表を紹介しよう。ソフトウェアデザイン部門の日本代表としてポーランドに来ているのは、「筑駒パ研、いよいよ世界に――センスが光るソフトウェアデザインを披露」で紹介した、筑波大学附属駒場中高等学校パーソナルコンピュータ研究部(通称:パ研)のメンバーで構成された「PAKEN」。「極度の貧困と飢餓の撲滅」をテーマに選んだ彼らのソリューション「Bazzaruino」は、民間旅客機の搭乗者が無料で預けられる荷物の空きスペースを利用して、貧困地域への物資援助に役立てようというもの。日本大会では、“パ研らしい”輸送最適化アルゴリズムの美しさに注目が集まったが、日本大会で指摘された課題――例えば物資のトレーサビリティ――を解決すべく、この数カ月取り組んできた。

 ポーランドに旅立つ前日に開催された壮行会で、記者は約4カ月ぶりにPAKENのプレゼンテーションをみたが、Bazzaruinoは2つのサービスから成るソリューションに姿を変えていた。輸送計画を担う部分を「AirPorter」と名付けたサービスとし、支援団体とエンドユーザーとのインタラクションや荷物のトレーサビリティなどを担う部分を新たに「CivilPress」として構築した。CivilPressはロケーション情報を組み合わせたSNS的な仕組みを用いており、例えば世界のどの支援団体が支援物資を必要としているか、または自分がAirPorterによって送った物資はどこに届けられたのかなどが地図上にマッピングされ、そこにソーシャル的なテイストを加えている。なお、物資のトレーサビリティは「Microsoft Tag」を利用して実現している。おおざっぱに言えば、アクションに対するフィードバックを得るためのサービスがCivilPressで、AirPorterとCivilPressをまとめてBazzaruinoと呼んでいる。

 もちろん、この数カ月PAKENが取り組んできたのは、システムのブラッシュアップだけではない。マイクロソフトは日本大会終了後、サポートプロジェクトを始動、専属トレーナーによるプレゼンテーションレッスン、ネイティブ講師による英語レッスン、経営コンサルタントによるビジネスモデルレビュー、マイクロソフトの技術者によるテクノロジーレビューなどが提供され、PAKENは密度の濃い期間を過ごすとともに、世界で戦える基礎を築いてきた。

副首相も登場、ヒートアップする学生たち

 そして現地時間の7月3日、ポーランドの首都ワルシャワにそびえ立つ文化科学宮殿の広場でImagine Cup 2010は開幕した。Microsoftポーランドのゼネラルマネジャー、ジャチェック・ヌラフスキ氏。同氏は世界中から集まった400余名の学生を前に、それぞれが自国の代表であり、また、33万人もの学生の代表でもあるとし、すでに賞賛に値するのだと集まった学生たちをたたえた後、自国の発展の歴史と照らし合わせながら、若い可能性が世界を変えていくのだと強調した。

文化科学宮殿の前に勢ぞろいしたImagine Cup 2010世界大会進出者たち。400人を超える赤の集団が、ワルシャワの街を彩った

 「わたしの学生時代を思い返すと、この国の経済状況はひどいものだった。しかし、一生懸命取り組み続けた結果、ポーランドは今日の発展を遂げることができた。情熱と技術、あるいは創造力が、世界を変えたのだ。“ITを活用して国連ミレニアム開発目標を達成する”というImagine Cupのテーマについて、もしかすると、そんなことは無理だと考えている方もいるかもしれない。しかし、世界は変えることができる。今より住みやすい世界を創造していくのは、ほかでもない君たちであり、君たちはその力を持っている。そして、世界中が君たちに期待している」(ヌラフスキ氏)

ゲストとして登壇したヴァルデマル・パヴラク副首相

 会場のボルテージが上がっていく中、ゲストとして登場したのは、かつてポーランドの首相を2度務めたこともあるヴァルデマル・パヴラク副首相。一般的に、こうしたイベントに閣僚、それも副首相クラスが登場することはきわめて珍しい。裏を返せば、副首相の時間を割くに値する大会であるということもできるだろう。

 パヴラク氏は、2010年がポーランドの国民的英雄であるショパンの生誕200周年であることを伝え、その年に、ポーランドでImagine Cupを開催できたことに感無量の様子だった。「ショパンが今日の世界をみたら、劇的にモダンになったというだろう。彼は君たちに、伝統を尊重しつつ、クリエイティブな変化を推進せよ、というに違いない」と、未来のリーダーであり、イノベーターである学生たちに訴えかけた。

 この開会式で、学生たちは赤のTシャツに身を包み、野外会場を赤一色に染め上げた。ポーランドの国旗が赤と白の2色から成ることをご存じの方は多いと思うが、赤が意味するのは「自由」である。ポーランドがたどってきた自由への道のりを象徴しているかのように記者には思えた。そんな中、日本代表チームは「侍」の文字が背中にプリントされた青いTシャツを着て、開会式に臨んでいた。折しもサッカーワールドカップで世界に存在感をアピールしたサムライブルーのようだ。

 マイクロソフトのアカデミックテクノロジー推進部部長として今回ポーランドに同行している伊藤信博氏は、壮行会の場で「ベスト6を狙います」と自信を見せていた。PAKENのメンバーはさらに強気で、「優勝を狙う」と公言している。しかし、ここ数年、ソフトウェアデザイン部門で日本代表はよい成績を残せていない。それはちょうど、サッカーワールドカップの強化試合として行われた4試合で連戦連敗を喫したのとイメージが重なる。だが、戦前の予想を覆して、決勝トーナメントに進んだサムライブルーと同じく、テクノロジーのワールドカップたるImagine Cupで、PAKENも躍進してくれるかもしれない。

 68チームで争われる今回のソフトウェアデザイン部門。ラウンド1では、9チーム、あるいは8チームごとにグルーピングされ、審査を受ける。ここからラウンド2に進めるのはわずか12チームという狭き門だ。日本が属しているグループには、イスラエル、インドネシア、ウクライナ、パキスタン、マルタ、メキシコ、モロッコが名を連ねている。グループの上位チームがラウンド2に進むのではなく、あくまで絶対評価で上位12チームが決まるのだが、同一グループは審査員が同じであることと、特筆すべき強豪が存在していないことを考えれば、日本は比較的恵まれたグループだといえる。もちろん厳しい戦いであることに変わりはないが、PAKENの活躍に期待したい。

 なお、大会の模様は、Imagine Cup日本代表チームのTwitterアカウント(ImagineCupJP)やハッシュタグ「#imaginecupj」、およびUstreamでも配信予定となっている。ソフトウェアデザイン部門日本代表のラウンド1は、日本時間の7月5日午前1時ごろに開催される。こちらも併せてご覧いただきたい。

文化科学宮殿の前で日本の国旗を掲げるソフトウェアデザイン部門日本代表の「PAKEN」。右から石村脩氏(チームリーダー)、関川柊氏、永野泰爾氏、金井仁弘氏

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