現場で効くデータ活用と業務カイゼン

FileMaker製オンライン医療DBを通じ“産・官・学”の連携を図る導入事例

頻繁に変更が加えられるシステムにおいて、ランニングコストの増大を抑えるには、ユーザー自身が手を加えられる環境を構築し、SIerへの発注を減らすのが効果的だ。情報の鮮度が求められるオンラインデータベースをFileMakerで刷新した例を紹介しよう。

» 2010年08月04日 08時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]
財団法人医療機器センター 医療機器産業研究所の中野壮陛 主任研究員

 現代の医療現場に欠かせない各種の医療機器。そこには高度なテクノロジーが求められるとともに、患者の生命にもかかわるため、慎重な検証が欠かせない。必要な法令に適合していることも求められる。つまり、医療機器の発展や適切な利用の普及には“産・官・学”の連携が不可欠というわけだ。そのパイプ役を担うべく設立されたのが、財団法人医療機器センター(略称:JAAME)である。

 それぞれの分野の性質の違いから、どの分野でも担うことが難しい業務が生じがちなことは、産・官・学連携の常でもある。JAAMEは、そのようなすき間を埋めるため、医療機器やその要素技術にかかわる情報の集約、整理、公開、医療機器を安全に製造/活用するために不可欠な講習会や試験、さらには機器の認証や技術開発の支援などを行っている。

 当然、JAAMEの業務においては、多様な情報を効率的に管理する仕組みが求められる。そのため、必要なときに職員自らがデータベースを構築/活用できるツールとして、以前からFileMakerが用いられていた。例えば講習会などの受講者や講師の名簿の管理などにも、古くからFileMakerが使われていた。近年では、オフィスのほぼ全てのPCで、FileMakerを使っているという。

 「FilkeMakerを使っているのは、1990年代後半まで我々がMacを使っていたことも背景にありますが、名簿など必要なデータベースを必要な時にすぐ使え、また自分たちで改良しながら使えることも、使い続けている大きな要因だと考えています」と、財団法人医療機器センター 医療機器産業研究所の中野壮陛 主任研究員は話す。

公開DBの更新を、より迅速に、かつコストをかけず行いたい

 JAAMEの主な業務である、“関係機関への情報提供と連携”を果たす中で、重要なWebサイトがある。会員制(有償)のオンラインデータベース「JAAME Search」だ。

 このサービスを良いものにしていくためには、新しい情報を迅速に公開することが望ましい。しかし、以前のJAAME Searchではデータの更新に課題があった。新たな情報を公開する際には、委託している業者にCSVデータを送り、システムに登録してもらう必要があったのだ。

 「更新はリアルタイムにできないし、ちょっとした修正をしたくても小回りが利きません。修正するたびに費用が発生し、時間がかかりすぎるのも課題でした。“赤字になる”という状況ではなかったものの、新しいことをする余裕もありませんでした。また、月々の運用コストも高く、解決策がないものか、考えていました」(中野研究員)

 並行して、もう1つのオンラインデータベースも、課題に直面していた。「ナノメディシンの実用化基盤データベース(以下、ナノメディシンDB)」である。こちらは無償で自由利用できるWebサイトだが、同じく外部の業者に更新を委託しており、定期的に作業費が発生していたのだ。

 JAAMEでは2007年度、これら2つのオンラインデータベースを、リアルタイムに更新でき、月々の維持コストが安いシステムに作り変えるため、検討を開始した。

 両サイトを比べると、JAAME Searchの方が、よりデータベース構造が複雑であり、有償版ゆえ高いサービス品質が求められるといった理由もあり、開発の長期化が予想された。一方、ナノメディシンDBは国の研究費によって運営されていたが、研究テーマの組み替えにより2008年7月までには新たなWebサイト「低侵襲医療機器開発の情報検索サイト(略称:MIMT DB)」を作って公開しなければならなかった。そのため、まずMIMT DBを“フェーズ1”として先行着手し、そこで経験を積んだ上で“フェーズ2”、すなわちJAAME Searchに取りかかることが決まった。

内部でも使っているFileMakerから、ダイレクトにWebへ公開

MIMT DB 完成したMIMT DBのインタフェース

 JAAMEでは、数社のシステムインテグレーターと相談し、それらの提案を比較検討した。基本的な方針は、「ランニングコスト、すなわちTCOを下げるために、イニシャルコストをかけて開発する」というものだ。頻繁にデータを更新する中で、できるだけ低コストに更新できる仕組みが求められていた。

 「当初は、自前で更新できる環境を作るため、CMSツールの導入も検討しました。ですが、相談したシステムインテグレーターと話し合っていくうちに、思ったより小回りが利かないことが分かってきました。新たなデータベースを追加する際には、やはり作業を委託する必要があるのです。また、CMSを使うには、別途RDBが必要となり、コストも高くなってしまいます」と中野研究員は振り返る。

 悩んだ中野研究員だったが、そこでふと、“FileMakerを活用する”というアイデアが浮かんだという。職員のPC管理も担っている中野研究員は、以前、オフィス内で使っているFileMakerの一部を“バージョン9”に更新していた際、そのWeb連携機能が大幅に強化されている点に興味を抱いたことがあった。当時は具体的な取り組みにつながらなかったが、ここにきて、今回のプロジェクトに使えるのではないか? と考えたのだ。そもそも、(JAAME Searchなど)オンラインデータベースの元データはFileMakerで管理されており、この方法が使えるなら、更新の負担は大幅に軽減できるはずである。

 内部でのデータ管理と、外部に公開するデータの管理を共通化できるのでは?――そう考えた中野研究員は、急遽FileMakerの開発ベンダーを3社ほど選び、検討を開始した。2008年に入った頃である。

 このようにして最終的に選ばれたパートナーが、マジェスティックだった。

 「コミュニケーションをしていく中で、レスポンスが早いかどうか、われわれのリクエストを前向きに解決してくれるかどうか、という基準でマジェスティックを選定しました。これまでの打ち合わせの中で、大手のシステムインテグレーターは、自社ソリューションの説明に終始することが多かったのですが、マジェスティックは、こちらの要件をしっかりとヒアリングしてくれました」と中野研究員は話す。

 FileMakerを基盤としたシステム開発では、ユーザーがインテグレーターと同じツールを使うことで、コミュニケーションを円滑にする効果がある。開発に使える時間が限られている状況で、このことも大きな要因だったようだ。開発に携わったマジェスティックのシステムコンサルタント、堀川仁氏は、次のように話す。

 「お互いFileMakerの用語に慣れているので、システムについてのイメージを共有するのが容易でした。JAMMEの方からシステム用語について質問されることはほとんどなく、むしろ逆に我々の方が、薬事法関連などの専門用語を理解するのに苦労しました」(堀川氏)

コスト削減に加え、提供する情報の鮮度も向上。今後の活用案も

 こうして開発は進められ、MIMT DBは無事、期限内に公開できた。続くJAAME Searchの開発も順調に進み、2009年4月に正式オープンを迎えた。

 「2つのWebサイトの開発に要した費用は、CMSを使った場合の見積もりと比較すると、半額程度になった印象があります。ランニングコストも、40%弱ほど下がりました。しかも、オンラインデータベースのユーザーに対するサービスレベルも以前より改善できました。新しいデータベースを追加しようとすると、以前のシステムでは数百万円規模の予算が必要でしたが、今は数十万円程度で可能です」と中野研究員はFileMakerによるオンラインデータベース運用体制を評価している。

 中野研究員は、「コストを下げられただけでなく、業務の効率そのものが向上したため、新規サービスの開発に以前より時間を投入きるようになったことも、メリットです」と話す。

 新規サービスとして、具体的には“(講習会などの)申し込み受け付けサイト”の構築を検討しているという。JAAMEが実施する講習会には数多くの種類があり、全体では2万5000人あまりの受講者がいる。現状では(紙で)受け付けた申し込みをFileMaker上の名簿に転記するといった作業が生じているが、FileMakerのWeb連携機能を活用して自動的に登録されるようにすれば、業務負荷を軽減できる。

 「受講者各自の“マイページ”を作り、過去の受講履歴などを確認できるサービスも実装できそうだと考えています。受講者の中には、職場に固有のPCを持たない看護師や学生も多いので、携帯電話やスマートフォンにも対応したい。2、3年以内を目処に取り組めれば、と考えています」(中野研究員)

変更履歴:タイトルに誤植がありました。お詫びして訂正いたします。[2010/08/04 12:46]

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