クラウドコンピューティングは本当に安上がりなのか?オルタナティブ・ブロガーの視点

クラウドコンピューティングは本当に安上がりなのだろうか。このシンプルな問題を、オルタナティブ・ブロガー磯島大氏が、住宅(持ち家とホテル)に置き換えて論評します。

» 2010年09月16日 15時34分 公開
[磯島大,ITmedia]

(このコンテンツはオルタナティブ・ブログ「天下夢想onオルタナティブBLOG」からの転載です。エントリーはこちら。)

 クラウドコンピューティングのメリットとして、コスト削減が挙げられることが多いのですが、さて、本当にそうなのでしょうか? HaaS、IaaS、PaaS、SaaS、などレイヤの違いを問わず、所有しないという点で機材や開発などの大きな初期投資が掛からず、共有型によるコスト分散の結果、効率的になるはず……?

 ITシステム以外で同じようなモデルの例は何があるんだろう? コスト的にどういうバランスになっているんだろう? と考えてみました。

 すぐに思いついたのは住宅。例えば持ち家とホテル住まいではどうでしょう?

 都市部で2LDK 60平米くらいの住宅を5000万円で買って10年住んで4000万円で売却したとすると、差額は1000万円。10年間の間にメンテナンスや修理などで300万円くらいかな。水道光熱費で300万円くらいでしょうか。その他税金やなんだかんだかかるとして、月額の費用は20万円ほど?

 一方、同じくらいの間取りのホテル。長期契約のディスカウントをしてもらえるんじゃないかという期待を込めて1泊1万5千円として、月額45万円。

 アレま、所有する方が安いじゃん……。

 実際には好きな家具に囲まれて過ごしたいとかいろいろ好みがあったりするので、単純に比較するのは乱暴ですが、クラウドも、なんだかんだ言って同じシステムを使い続けるとしたら数年でコストは同じくらいになるのではないかという話を聞いたことがあります。

 クラウドの方が断然安いかというと案外そうでもない。

 とはいえ、短期的に見れば頭金を払うわけではなし、初期投資もほとんど掛からないということで、住宅でもITシステムでも仮に1年だけと考えればずいぶん安上がりというところでしょうか。

 住宅の場合は、仕事の関係でよく引っ越すとか、家族が増えて間取りを広くしないと、とか、そういうことまで含めて考えると持ち家はなかなか難しい面が出てきます。また、毎日の掃除などホテルでは料金を払えばやってくれることを、自宅なら自分で頑張るわけですが、企業活動では人を雇うことになる(運用などという意味です)わけで、固定費がかかります。

 つまり、拡張性や柔軟性を確保して変化にすぐ対応できるというのが、クラウドやホテルのようなサービスを受けるメリットということになります。

 このほかにも、ホテル暮らしの快適さがいいとか、いやいや自分のスタイルで生活したいとかあるでしょう。ITシステムでも、このシステムは競争力のために独自でなければならないとか、汎用的なものは何でもいいとか、いろいろ観点があるでしょう。

 単純に短期的、あるいは長期的なコストというある時点での算定だけで考えると、「どちらが得か」というような議論になってしまいますけれど、本質的には、経営体質をどのように強いものにするかというポイントで見ないといけないわけです。スピードとか、筋肉質とか、変化に強いとか、そういった言葉で語られてきた企業マネジメントのあるべき姿を実現する1つの解としてとらえていくことが肝要なのです。

 そして、ユーザー企業だけでなく、提供側(ベンダ)や、導入にかかわるSIerやコンサルタントも、何をどのレベルで所有し、何をサービスとして活用するのかを見極めて判断していく必要があります。

 いろいろな方たちと話をしていても、この辺りはまだまだ模索中であったり、試行錯誤であったりします。経営課題の解決策としてのサービス化、クラウド活用は、まだ緒に就いたばかりですから、当然でしょう。とはいえ、単なるバズワードやベンダの売り文句としてもてはやされて終わってしまうには余りにももったいない、ITの機会だと思いますので、うまく生かしていける道を見つけていきたいですね。

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