中小企業の活力を高めるIT活用の潮流 豊富な事例を紹介

あくまでクラウドは手段の1つと考えるべき中小企業の活力を高めるクラウド活用の潮流(2/2 ページ)

» 2010年12月15日 08時00分 公開
[伏見学,ITmedia]
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苦しい小売業

 業種ごとの傾向はどうか。下図を見てほしい。どの業界も全体的に厳しい状況に変わりはないが、同じIT投資の低迷によっても、それぞれの業界で考え方や指針は大きく異なっている。

業種別のIT投資DIの変化(出典:ノークリサーチ) 業種別のIT投資DIの変化(出典:ノークリサーチ)

 投資意欲があるといえるのが、IT関連サービス業や組立製造業である。IT関連サービス業は、クラウドコンピューティングなどがもたらす変化に対応するための投資が必要であるという意識が高く、それらに向けた予定や計画を立てているものの、資金不足などで実施できていない状況にある。

 組立製造業については、2010年5月から11月にかけて経常利益DIが11.2ポイントと大きく下落したものの、IT投資DIは3.3ポイント増加している。理由としては、製造拠点の海外移転などによる中長期的なIT投資が求められており、生産管理システムや物流管理システムなどを新たに構築したいという意識は高い。しかしながら、不況のために投資を延期している企業は他業種と比べても多く、するべきことは分かっているが、そのための資金がないという状態に陥っている。

 IT投資の必要性は感じているが、(知識、スキルなどが不足しており)何をすべきか判断できないというのが小売業である。2010年5月から11月にかけて経常利益DIが25.2ポイントと大きく下落しており、IT投資DIの下落幅も27ポイントと全業種で最も大きい。

 中でも特に苦しいのが中堅・中小の小売企業だ。小売業といえば、昨今、大手スーパーマーケットやコンビニエンスストアの躍進で脚光を浴びているが、「(価格競争に陥りやすい業態であるため)販売商品の単価は低く、利益率も低い。中堅・中小企業にとっては厳しい状況が続いており、IT投資にまでとても手が回らない。業務改善のためにITをどう活用していいかも分からない」と岩上氏は述べる。

クラウドは万能ではない

 このように、中堅・中小企業が置かれている現状を見ると、不況によるコスト抑制がIT投資を妨げる大きな原因になっており、それを解決するものとして注目を集めているのがクラウドである。しかし、岩上氏は「確かにクラウドはITコストの一部分を下げることには向いているだろうが、そもそも中堅・中小企業の真の課題は別のところにある」と指摘する。

 つまり、中堅・中小企業にとって大きな問題なのは、ITコストの削減ではなく、ITを使って何をすればいいか分からないという点だという。実際に、さまざまな情報システムやITツールを導入しているものの、その機能を100%生かしきれていない中堅・中小企業は多い。

「さかんにクラウドの重要性が叫ばれているが、決してクラウドは万能ではなく、本当の企業課題を見ないと意味はない。情報システムのサービス化は1つの手段ではあるが、(ITを使って)何をやりたいか理解している企業でなければ有効ではない」(岩上氏)

 こうした状況を作り出しているのは、ユーザー企業にITサービスを提案するベンダー企業などにも責任がある。顧客に対していきなりクラウドサービスを中心に据えた提案をしてしまっているがために、実は多くの潜在的なニーズがあるのにそれを拾いきれていない状況を結果的に作ってしまっているという。

「唐突にソリューションを提案しても顧客には響かない。患者に対する医者の処方と同じで、中堅・中小企業のさまざまな課題例を用意しチェックリストを作る。その課題を共有して提案を進めていくことで、もしかしたら最終的にクラウドが解決できる課題があるかもしれない。決してクラウドありきではない」(岩上氏)

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