「Lindacloud」はクラウドコンピューティングの新たな主役伴大作の木漏れ日

Lindacloudの取材を通じて僕は、クラウドは「アプライアンス」のためのプラットフォームだとつくづく感じた次第である。

» 2011年04月01日 08時00分 公開
[伴大作,ITmedia]

 半年ほど前になるが、「木漏れ日」ではプライベートクラウドに否定的な見解を書いた。同時に、「クラウドの行き着く先」と題して、僕の考えを明らかにした。

 今ではプライベートクラウドに関し、マスコミ、ユーザー双方とも、当初の熱が冷めたように見える。また、これまでクラウドという言葉を多用してきたハードウェアベンダー以外にも、さまざまな角度からクラウドにアプローチする企業が増加した。

 中でも、NTTデータが提供するクラウドは自社開発のハードウェアを提供するというモデルであり、異彩を放っている。

 僕はこれまで「クラウド」はソリューションの1つであり、決して安価で高性能なコンピュータを意味するモノではないと言い続けて来たが、NTTデータの取り組みはそれを裏付けるものだと思っている。今回のコラムではまずこの話題からスタートする。


 国内最大のSIerであるNTTデータは2010年11月、垂直統合型サーバ「Lindacloud」の販売開始を発表した。その時点ではうかつにも、僕はこの発表を見落としてしまった。3月上旬にNTTデータを取材した折にも、これに関する話がなかったので、やはり見過ごしてしまった。でも僕の見落としには、それなりの理由がある。それは「Lindacloud」がハードウェアとして販売出荷される製品だったからだ。

 NTTデータはハードウェアベンダーとして位置づけられてはいない。従って、同社から発表されたこのマシンも、僕の頭の中では取材対象外となってしまっていたのだ。

 悔しまぎれの言い訳はこの程度にしよう。これまでも僕は日本のクラウドサービス事業者の動向を常に気にしていた。それは、米Googleや米Amazon.com、米Facebookのようなネットサービス事業者はベンダーが取り扱っている製品のラインアップ以外で、自社独自の基準で定めた仕様のサーバを発注し、導入しているケースが非常に多いからだ。実際、米DELLは昨年、カスタムモデルの受注活動開始を発表した(彼らはその時点で最大の顧客としてGoogleがあることを明らかにしていた)。Amazonは誕生時、米DECから随分支援を受けたようで、現在も米HPとの関係が強い。

 日本でも自社独自のスペックでクラウド向けサーバの導入を進める動きがあることは知っていたが、日本のサーバ市場は熾烈な競争で消耗戦の様相を見せている。外資系ベンダーもなり振りかまわず、日本のユーザーが求めている安価なラック型サーバを投入している。そのおかげか、HP、NECなどの製品は低価格かつ高い信頼性が評価され、ネット事業者が独自のモデルを購入する試みは表に出ることがほとんどなかった。

ベンダーの基準とネットビジネス事業者のニーズに乖離(かいり)が?

 僕はハードウェアベンダーに対して、日本のユーザー、中でもネットビジネス事業者には、Nehalem-Exに代表される高性能CPUを用いたラックマウント型あるいはブレード型サーバはそれほど売れないだろうと忠告してきた。ユーザーが求めているサーバ像と、ベンダーが提供している製品とには、大きな乖離(かいり)がある。もちろん、ネットビジネス事業者と一般のユーザーとではニーズが違うのは承知した上だ。でも、安価なラックマウント型へのニーズはいまだ両者に共通している。

 今回のLindacloudの発表で、実際、開発者側はサーバ像をどのように考えているのかNTTデータの開発を担当した法人システム事業本部 Lindacloud開発担当 角野みさき部長、Lindacloud開発部 営業担当 森野ひろ美両氏に、開発の経緯や、コンセプト、スペック、対応アプリケーションなどについて聞いてみた。

 まず開発コンセプトだが、角野部長は世間で一般に売られているサーバは使う側からすればオーバースペックで、価格が高いことや、使い勝手がいまひとつ良くないことを挙げた。次いで、サーバの細かいスペックでSANやNASのような外部接続のストレージはできるだけ使いたくない。できれば筐体に内蔵されたディスク装置で納めたい。プロセッサはアプリケーションによるが、今回のLindacloudのプロジェクトでNTTデータが想定しているアプリケーションに関してはサーバ用CPU、巨大なメモリーは不要という結論に達したという。それよりも、Hadoopを搭載するので、大きな内蔵ディスク装置の方が欲しい。でもそのようなサーバはほとんどないのが実情だ。そこで、自作するのもそれほど難しい話ではないので、取りあえず自社生産するということで始めたという。今後受注が増加した暁にはEMS事業者に生産を委託したいと考えているそうだ。

 この話にも出たが、CPUがオーバースペックだというのは、僕の持論でもある。今回のNTTデータに対する取材で僕の見解が図らずも裏付けられた形だ。

 昨今のコンピュータ市場を見る限り、米IntelがコミットしたCPUを何の疑いも持たずに製品として出す傾向が強い。これではコンピュータベンダーは、単なるIntelの下請けだ。製造業としてユーザーのニーズを正しく把握して、本当に求められているモノを提供するという基本にいま一度立ち返ってもらいたい。

台数は10倍、価格は10分の1に

 今年、クラウドが本格的な普及期に入るのは間違いない。同時にGoogleを代表とするネットビジネス事業者を筆頭に自らのリスクで設計、開発したプラットフォームを導入するケース、あるいは外部に販売するケースも増加するだろう。

 その場合、売る側に回った人たちは自らの経験からどの程度の金額なら、ネットワークビジネス事業者が買いやすいかを知っているだろう。

 NTTデータが発表したLindacloudはいくつかのアプリケーション用に特化されているとはいえ、その価格は驚くほど安い。

 販売予定に関しても、現在で毎月10〜20セット(サーバ数は不明だが同社の構成図を参考に、およそ12台程度を内蔵した製品が売れ筋であれば、サーバ数は毎月120台から240台となる)になる。Lindacloudはアプリケーションでハードウェア構成が変わるので一概に言えないが、ラック単位の価格は一般のベンダーと比較して極めて安く、上記構成なら価格は600万円前後であろう。

 価格面での単純な比較は難しいが、HPやDELLなど米国勢や、国産のNECの場合、1000台以上で1台の単価が10万円前後というのが一般的な相場らしい。その点でもLindacloudは十分競争力がある。

 もちろん、今後販売台数が増加した暁には量産効果が進み、集積度も上がることが期待できるので、価格は劇的に低下する。うまく行けば、サーバの台数が10倍になろうとも、価格はそのままということも期待できるのかもしれない。

クラウドはアプライアンスである

 今回のNTTデータへの取材で、もう1つ、僕の長年の疑問が解消した。クラウドにおけるパブリックとプライベートとの関係だが、NTTデータはLindacloudの用途として、1)Hadoopベースの大量データ処理、2)シンクライアントサーバ、3)NASサーバ、4)Lindasync(ストレージサービス基盤)を挙げた。このうち、シンクライアントは他社でも導入事例は多く、NASサーバとしてのそれも同様だ。

 どうも同社がユーザーに提供したいこのシステム本来の長所は、それらとは違うところにありそうだ。残るHadoopを利用した大量データ処理に用いられるケースは、従来のシステムでは厄介だった処理を劇的な速度で遂行可能とする。しかも非常に安価に済むという長所がある。もう1つ、Lindasyncとして用いられるケースは、SOX法対応やナレッジの共有を可能にする。ユニファイドコミュニケーションが今後本格的に導入された場合、組織内で発生するデータの総量は劇的に増大する。それを単に記録するだけなら、当該組織にとって何のメリットにもならないが、共有化することにより、さまざまな人たちがテンプレートとして再利用することができる一種の「ナレッジシステム」を自動的に構築できる。これが同社の狙いのようだ。

 さらに同社はパブリッククラウドの優位性を認めた上で、いまだ企業内で使用されているさまざまなアプリケーションがパブリッククラウド化されていない現状を考えると、ひたすらそのサービス提供を待つより、できるところからプライベートクラウドという形でも導入し、社内にサービスを始める方が正しいのではと考えているようだ。

 実は、今回の取材の最大の成果は“クラウドなんてただのプラットフォームに過ぎない”ということの再確認だ。今のクラウド論議はそのプラットフォームレベルの議論に終始しているため、あい路に入り込むのだ。今回のNTTデータのように具体的なアプリケーションを提示されると議論も具体性を帯びて、話しやすくなる。それにしても、クラウドはつくづく「アプライアンス」のためのプラットフォームだと思い知らされた。

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