メインフレームのオープン化が進まない理由Weekly Memo

日本オラクルが先週、メインフレームをオープン化するミドルウェアを発表した。こうした製品が出てくるのは、メインフレームのオープン化が進んでいないからだ。なぜか。

» 2011年04月18日 07時30分 公開
[松岡功,ITmedia]

日本オラクルが最新ソリューションを投入

 日本オラクルが4月12日、メインフレーム上のアプリケーションをオープン環境に移行するミドルウェア「Oracle Tuxedo ART 11g R1」(以下、Oracle Tuxedo ART)の提供を開始すると発表した。

 メインフレーム上のアプリケーションをリホストし、UNIX/Linux環境で動作させることで、メインフレームの高い維持費用を大幅に削減するとともに、最新のオープン技術を利用できるようにするのが狙いだ。

 対象となるメインフレームは、今のところIBM製品だが、日本製品についてもパートナー企業との協業によって顧客ニーズに応えていく構えだ。

 Oracle Tuxedo ARTは、メインフレームのトランザクション処理を管理するCICS(Customer Information Control System)アプリケーションとJCL(Job Control Language)バッチプログラムを実行する「Oracle Tuxedo Application Runtime for CICS and Batch 11g R1」、およびメインフレーム上のアプリケーションをオープン環境に移行する「Oracle Tuxedo Application Rehosting Workbench 11g R1」の2製品からなる。

 メインフレームのアプリケーション資産をオープン環境に移行する工程では、アプリケーションおよびデータの変換を自動化するため、作業の工数を大幅に削減できる。CICSのオンラインプログラムは、メインフレームで稼働するCOBOLのビジネスロジックをそのままCOBOLに移行。データアクセスロジックはOracle DatabaseやISAM(Indexed Sequential Access Method)ファイル向けに自動変換される。

 また、IBMメインフレームにおいては、専用ターミナルである3270のユーザーインタフェースに変更を加える必要がないため、違和感なく利用でき、操作のための再教育も必要がないとしている。

 一方、バッチ処理については、JCLのジョブ構造とフローをそのまま維持しながらシェルスクリプトに変換される。シェルスクリプトから呼び出されるアプリケーションや各種ユーティリティは、IBMメインフレームと同様に、Oracle Tuxedo ARTのバッチ実行環境で動作させることができる。

 Oracle Tuxedo ARTのさらに詳しい内容については関連記事などを参照いただくとして、ここではこうした製品が出てきた背景を注目したい。

ベンダーにとっては今も大事な収益源

 会見に臨む日本オラクルFusion Middleware事業統括本部ビジネス推進本部シニアディレクターの清水照久氏 会見に臨む日本オラクルFusion Middleware事業統括本部ビジネス推進本部シニアディレクターの清水照久氏

 日本オラクルFusion Middleware事業統括本部ビジネス推進本部シニアディレクターの清水照久氏は会見で、Oracle Tuxedo ARTを投入した背景についてこう語った。

 「欧米と比較しても日本ではまだまだメインフレームの稼働率が高い。オープン化のニーズはあるが、コストや所要時間を含め移行プロジェクトとしてリスクが高すぎるとの判断から踏みとどまっているユーザーが少なくない。そうしたユーザーを支援するのが今回のソリューションだ」

 そして、「メインフレームは現在、数千台が稼働しているとみられるが、そのうちの1〜2割は近いうちにリホストするだろうとみている」との予測を示した。

 清水氏の説明を言い換えれば、メインフレームのオープン化が進まないのは、ユーザーにとってリスクが高すぎるためだ。確かにこれまで長年にわたって作り込んできたシステムおよびアプリケーションをオープン環境に移行するのは高いリスクを伴う。

 メインフレームのオープン環境への移行は、UNIXを中心としたオープンシステムが台頭してきた1980年代後半から盛んに取り組まれるようになった。しかし、2000年代半ば以降はメインフレームの減少傾向も下げ止まった感がある。

 ただ、メインフレームに詳しい業界関係者によると、「メインフレームは国内での稼働台数が一昔前より減ったとはいえ、いまだ大手企業のメインサーバのうち3割近くを占めている」という。

 さらにその業界関係者は、「メインフレームのオープン化が進まないのは、ベンダー側の思惑もある。実は、メインフレームの製品単価はこの10年間ほとんど変わらずに推移している。それはすなわち、メインフレームならではの利益率の高さを維持しているということだ。メインフレームベンダーにとっては今も大事な収入源になっている」とも語った。

 つまり、メインフレームのオープン化が進まないのは、ユーザーにとってハイリスクである一方、メインフレームベンダーにとっても大事な収益源を失うことになるからだ。

 日本オラクルが投入した今回のようなリホストを行うソリューションや、さらにはクラウドコンピューティングの進展が、こうしたメインフレーム事情にどう影響してくるか、注目される。

 日本オラクルの今回のアプローチは、メインフレームベンダーではないオラクルにとって当然といえる。ただ気になった点を1つ。今後、日本製メインフレームを対象にした場合、緊密なパートナー関係にある富士通と、どのように事を進めていくのか。いうまでもなく富士通は日本最大のメインフレームベンダーである。

 どうせなら、両社の技術やソリューションを組み合わせて、今後のITのあるべき姿を世界に発信してもらいたいものである。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。



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