お客さまは神様ではないバリュープロポジション戦略 50の作法

顧客は全知全能の神様ではなく、ときには間違えることもある。彼らが気づかない課題を考え、解決策を創造することが、パートナーとしてのわれわれの役目である。

» 2011年05月09日 11時30分 公開
[永井孝尚,ITmedia]

連載「バリュープロポジション戦略 50の作法」について

 本当の顧客中心主義満足とは何か?――。連載「バリュープロポジション戦略 50の作法」は、欧米発のバリュープロポジションというフレームワークをベースに、日本が昔から持っていた顧客本位の考え方を見直し、マーケティング戦略を構築・推進するための50の作法をまとめた書籍『バリュープロポジション戦略 50の作法』の一部を加筆・修正し、許可を得て掲載しています。


 「お客さまは神様です」

 これはある国民的歌手の言葉です。「ステージを見に来るお客さまを神と敬い、絶対的な存在の前で自分の歌を披露するのだ」、という、この歌手の哲学を、分かりやすく表現したものでした。

 しかしこの言葉には強い力があり、いつしか「お客さまは絶対的な存在だ」という本来とは異なる意味で日本中に広がりました。ともすると、われわれは顧客を絶対なものと考えてしまい、顧客の言いなりになりがちです。本当にそれは正しいのでしょうか?

 ある鶏肉加工工場での事例を紹介します。その工場では非効率なことに、作業員が手作業で鶏モモ肉を骨からはずしていました。熟練作業者いわく、「この業界では、昔から手で骨を取り出している。それ以外の方法を考えること自体、ばかげている」。

 そこで、ある機械製作会社の担当者は、「自動脱骨機を作ろう」と考えました。

 当初は否定的だった顧客も、自動脱骨機のデモンストレーションを一目見て、商品の価値を理解しました。この商品は他の顧客にも歓迎され、大ヒット商品になりました。ここから学べることは、「手作業をより効率化したい」という顧客ニーズは存在するのに、顧客はそのニーズに気づいていなかったということです。※参考文献参照

 カルロス・ゴーンいわく、「5年後の車について消費者は答えを持たない」。

 顧客は全知全能の神様ではありません。大切なパートナーであり、ときに間違えることもあります。私たちは、誰とパートナーになるのか、しっかりと見極めることが必要で、いざパートナーとなったら、徹底的に相手のことを理解するべきなのです。

 「顧客中心主義」とは、「顧客の言いなりになる」ことではありません。顧客が気づかない課題を考え、解決策を創造することです。

 もしあなたが顧客に対して理解が不十分だとしたら……まずは「言いなりになる」のではなく、大切なパートナーである顧客が言うことをすべてそのまま聞き届けて、顧客の課題を徹底的に理解し、自分が何ができるかを考えた上で解決策を提示することが必要です。

※参考文献:黒瀬直宏著『潜在ニーズを探る 問題意識がビジネスを生む』日刊工業新聞 2007年6月6日
※本書に掲載された内容は筆者である永井孝尚個人の見解であり、必ずしも筆者の勤務先であるIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。

バリュープロポジション戦略 50の作法

バリュープロポジション戦略 50の作法

バリュープロポジション戦略 50の作法

著:永井孝尚

オルタナティブ出版

2011年3月30日

1260円(税込み)

マーケティング戦略を構築・推進するための50の作法を、バリュープロポジションという切り口で、さまざまなマーケティング理論を網羅しつつ、日本の事例を中心にまとめた、マーケティング担当者必読の書。


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