「クラウドでゲームのルールを変える」――ポスト3.11のBCPをシトリックスが表明

10月4日に開催されたシトリックスのカンファレンス「Citrix iForum 2011 Japan」では、多様性と変化の速度を増すビジネス環境と、それに対応する同社のソリューションが取り上げられた。クラウド化を進めることでユーザー企業は「ゲームのルールを変えられる」という。

» 2011年10月04日 21時24分 公開
[石森将文,ITmedia]

 “フライジン”という言葉をご存じだろうか。東日本大震災の発生を受け、余震、そして何より福島第一原発事故による被曝をおそれ、国外に脱出した在日外国人をこう呼ぶのだという。「だがわたしは残った。今回の震災では、日本で働く外国人のパーソナリティも白日のもとにさらされたのではないか」と話すのはシトリックス・システムズ・ジャパンで代表取締役社長を務めるマイケル・キング氏だ。

シトリックス・システムズ・ジャパンの代表取締役社長、マイケル・キング氏

 試されたのは、日本に居留する外国人だけではない。普段からわれわれが「動いて当然」と考えている社会インフラも、国民が寄せる信頼に十分に応えられたとは言えない。被災地では電気、ガス、水道といったライフラインが長期間にわたって停止し、東京など都市部でも原発の停止による電力不足や、それによる計画停電、そして交通機関の混乱などがもたらされた。

 この事態をビジネスの視点に置き換えると、交通機関のマヒにより出勤できなければ業務情報を参照できないし、停電は電話やファックス、エレベータといったファシリティの停止ももたらす。そもそも災害により機材破損してしまえば、業務に就くことそのものが難しい。

 他方、ある種の特需ももたらされた。「カセット式コンロの販売数が急伸し、また結婚相談所の申込数も増えている。そして塾ではなく、家庭教師派遣業も伸びている」とキング氏は紹介する。

 「震災を機にUstreamやFacebookの認知度が上がった。自治体のメールマガジンの登録数も増加している」とキング氏は話す。このことは、人々が情報に接する場所が変わったということを意味する。

 「今は、家庭にいながら仕事ができるようになる、安全でセキュアなプロダクトが存在する。いつでもどこでも、あるいは移動しながらでも、生産的な業務に就ける。同時に、ビジネス環境が変化する速度が増しているが、これはチャンスでもある」とキング氏は話す。

 「例えば、たった5年間で、円はドルに対し38%も高くなった。日本企業はオフショアやM&Aを取り入れた成長戦略に舵を切る必要があるかもしれない。また野田首相が所信表明演説でも言及したように、若年労働力が減少している」(キング氏)。今後企業は、これまで家庭に入っていた女性や高齢者を労働力として取り込む必要があるというのが、同氏の主張だ。

 労働層の拡大と、ワークスタイルの変化に対応するには、柔軟で、効率よく、生産性の高いプラットフォームが必要だ。「国内の仮想デスクトップ市場は、2010年から2015年にかけて6倍になると試算している。また既に、多くの企業が様々なデバイス(スマートフォンやタブレット)を業務用クライアントとして受け入れつつある」(キング氏)

米シトリックス・システムズのシニアバイスプレジデント兼CMO、ウェス・ワッソン氏

 同氏の言う、変化に即応できる高生産性のプラットフォーム――これが実現すれば、国内企業の課題となっているBCP(事業継続計画)の礎となるだろう。来日した米シトリックス・システムズのシニアバイスプレジデント兼CMO、ウェス・ワッソン氏も「BCPとは、天災や人災に備え、ビジネスを柔軟に作り、あらゆる変化に対応できるようにしておくこと」と話すが、同時に「悪い状況だけに備えて安心していては、不十分だ」と指摘する。

 「新しいデバイス、新しいワークスタイル、新たな市場が生まれ、めまぐるしく物事が変化している。例えばiPadの存在。一年半前は存在しなかったが、いまやタブレットは世界を変えようとしている。そして若い世代が仕事に就いており、彼らの人生の価値観は、古い世代とは違うものだ。本来BCPとは、こういった“悪いことではない変化”にも対応しなければならない」

 同氏は「今日、新しい言葉を伝えたい」と話す。「VUCA(ヴーカ)という言葉を覚えてほしい。これはvolatility(不安定)、uncertainty(不確実)、complexity(複雑)、ambiguity(あいまい)の略語であり、いまのビジネス環境を端的に表す言葉だ」

 ワッソン氏の指摘のとおり、OS、ブラウザ、デバイスといった各レイヤーで多様性を増すコンピューティング環境は、どこが勝者になるのか予測がつかない状況である。なにせ米Amazonですら、ブラウザ(Silk)をリリースする時代だ。「おそらく、唯一の勝者が生まれることはないだろう。つまりユーザーは、あらゆる環境に対応しなければならない」(ワッソン氏)

 BCPが、VUCAなビジネス環境に対応し企業の成長を図ることであれば、シトリックスのミッションは「ユーザーがいかなる変化にも対応できるソリューションを提供すること」(ワッソン氏)となる。

 同社の場合、広義ではクラウド、具体的には仮想デスクトップで、ユーザー企業にとってのVUCAを打開するアプローチをとる。ワッソン氏は一連のソリューションを、いくつかのステップに分解して示す。

 「 GoToMeetingで人々のコラボレーションを実現し、アプリケーションとデスクトップを統合したサービスを配信する基盤としてNetScaler、XenDesktopが位置付けられる。あらゆるデバイスに、使い慣れたアプリケーション環境を届けるのがCloudGatewayで、デバイスとの接続ではAppStoreからも入手できるReceiverが機能する。ネットワークの透過性を保持しながら、外部のクラウドサービスと接続するためのソリューションとしてCloudBridgeが存在し、ESXを含む複数のハイパーバイザー接続できる基盤技術が、(Cloud.comの買収により製品ポートフォリオに加わった)CloudStackだ」(ワッソン氏)

 ワッソン氏は、同社のソリューションでVUCAに備えた国内企業を紹介する。例えば大和総研は、中国でのオフショア開発や、社員のバーチャルワークスタイル実現のため、仮想デスクトップを導入していたという。またエネオスグローブでは、パンデミック(による出勤困難)や、M&Aによる組織変更の可能性に備えて仮想デスクトップを採用した。「期せずして両社とも、3.11に伴い発生した事態に備えられた」とワッソン氏は話す。「彼らはゲームのルールを変えたのだ」

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