新たな協業にみるデルのクラウド差別化戦略Weekly Memo

デルを主体としたIT関連企業13社が先頃、オープンなクラウド環境を普及促進する団体を設立した。この動きから読み取れるデルのクラウド事業における差別化戦略とは――。

» 2012年02月27日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

IT関連企業13社がクラウドで新たな協業

 デルを主体としたIT関連企業13社が2月14日、オープンで標準化されたクラウド環境を普及促進するための団体「オープン・スタンダード・クラウド・アソシエーション(OSCA)」を設立したと発表した。

 ITベンダー、ソリューションプロバイダ、オープンソース関連グループなどからなる参加企業の協業関係を強化し、OSCAとして検証作業や技術支援、マーケティング活動などを展開していくとしている。

 設立時点での参加企業はデルのほか、インテル、ヴイエムウェア、NTTデータ、エンタープライズDB、オープンソース・ソリューション・テクノロジ、Cloudera、新日鉄ソリューションズ、日本マイクロソフト、日立ソリューションズ、Rackspace、レッドハット、およびWIDEプロジェクトといった顔ぶれだ。

記者会見に出席したOSCAの参加企業 記者会見に出席したOSCAの参加企業

 具体的な活動内容については、すでに報道されているので関連記事等を参照いただくとして、ここでは今回の新たな協業から、デルのクラウド事業における差別化戦略を読み取ってみたい。

 OSCAの初代会長に就任したデルの町田栄作 執行役員は記者会見で、同団体を設立した背景についてこう語った。

 「企業におけるIT環境は、かつての独自なアーキテクチャに基づくレガシーシステムからオープンアーキテクチャに基づくシステムへと移り変わり、ベンダーも水平分業の形でユーザーに幅広い選択肢を提供してきた。しかし、クラウド時代を迎えた今、再び独自のアーキテクチャに基づくシステムやサービスを展開するベンダーが目立ってきている」

 「これはユーザーにベンダーロックインを強いるもので、クラウド間での相互運用性の欠如や、サービスレベルおよび安全性における特定ベンダーへの依存といった問題が非常に懸念される。そこで私たちは、あらためて水平分業のもと、オープンで標準化されたクラウド環境を提案し、クラウド時代にもユーザーに幅広い選択肢を提供するべくOSCAを設立した」

 ちなみに、グローバル事業を展開するデルにとってOSCAのような活動は、今回の日本が初めてのケース。この点について町田氏は、「もともとレガシーが根強い日本企業のIT環境は、ともすればベンダーロックインの状態になりがち。そんな日本でまずオープンで標準化されたクラウド環境の普及促進に努め、グローバルでの活動につなげていきたい」と説明した。

デルがクラウド事業で水平分業を強調した理由

 「水平分業」と「ベンダーロックイン」。町田氏が会見でこの2つの言葉を繰り返し使っていたことに、筆者は当初、違和感を持った。その理由はこうだ。

 まず、水平分業は反語である垂直統合とともにビジネスモデルを表す言葉として用いられるが、デルはクラウド事業に対してどちらかといえば、必要な道具立てをできるだけ自前で取り揃える垂直統合型を目指しているのだろうと見ていた。

 というのは、ここ数年の間にデルはクラウド事業に必要な仮想化技術やストレージ、データセンター資産などを保有する企業を10社ほど買収し、パブリッククラウドやプライベートクラウド、さらにはハイブリッドクラウド向けにも豊富なサービスメニューを整備しつつあるからだ。

 クラウド事業においては、IBM、HP、オラクルといったメジャープレーヤーが垂直統合型ビジネスを展開しており、富士通やNECなどの国産勢も基本戦略は同じだ。資本力からいえば、デルもメジャープレーヤーの一角に名を連ねる存在だが、今回の会見で水平分業を強調したのはなぜなのか。

 一方、ベンダーロックインという言葉に違和感を持ったのは、水平分業を推進するとしながら、デルが主体であるOSCAの活動は、すなわちデルのサーバによるベンダーロックインの顧客囲い込み戦略ではないかと感じたからだ。

 だが、この点については町田氏の発言から、OSCAとしてはデルのサーバだけでなく「x86サーバ」を対象としているようだ。当然、自社のサーバを拡販したいデルの本音と建前が見え隠れもするが、x86サーバ普及の立て役者である同社がこうした活動の推進役になるのは、戦略としてありえると納得が行った。

 となると、疑問として残るのは水平分業を強調したことだ。そう考えていると、2年ほど前にデルのジム・メリット前社長が筆者のインタビューにこう答えていたのを思い出した。

 「IBMやHPといった競合他社との大きな違いは、モジュラー型のサービスを提供するというアプローチにある。ユーザーからみると、クラウド化を図るうえでサービスメニューから必要なものを選択して利用することができる。これによって、ユーザーニーズに合った効率の良い仕組みを最適なコストで実現できる」

 どうやら「モジュラー型サービス」というのがキーワードではないか。それもきめ細かくなればなるほど、水平分業による道具立ての品揃えが必要となる。逆にオープンで標準化されたモジュラー型サービスを豊富に品揃えできれば、ユーザーの選択肢は広がる。デルにとってはそれらを組み合わせれば、垂直統合型ビジネスに見せることもできるだろう。

 今回のOSCA設立には、クラウド事業におけるデルのそんな差別化戦略が盛り込まれているといえそうだ。

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