サービスマネジメントの新しい「鼓動」

「流行りものでよいなら他社を」――クラウドの実行力に自信を見せるIBMIBM Pulse 2012 Report

ママのアップルパイを食べる時のように「まあこれでいいか」とITを導入してはいけない――とTivoliのサバ―GMは指摘する。CIOに求められるのはテクノロジーをソリューションのコンテクストで捉えることだという。

» 2012年03月07日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 今回で5回を数える米IBM、Tivoli Softwareの年次カンファレンス「Pulse 2012」は、既におなじみとなったラスベガスのMGM Grandに前回を超える8000人の聴衆を集め、2012年3月5日(現地時間)に開幕した。本年のサブタイトルは「Optimizing the World's Infrastructure」だ。

 初回から参加している記者にとって、特徴的だと感じられた点が1つある。それはカンファレンスの主となるいくつかのメインテーマの筆頭に「クラウド」が挙げられていることだ。

 従来Pulseでは、ITサービスマネジメントを軸に、IT/非IT問わず企業のアセットを管理する「ダイナミックインフラストラクチャ」や、それをより昇華したインテグレイテッドサービスマネジメント(可視化され、自動化した管理システム)といったテーマが謳われてきた。どちらかと言えば「上流」とされるテーマ設定であり、特に「コスト削減」の観点から日本はじめアジア圏でもてはやされていた仮想化やクラウドといったテーマが扱われることは少なかった。

 だが昨年のPulseでTivoli Softwareのゼネラルマネジャーに就任して間もない“Dr.”ダニー・サバー氏がITシステムに「Execution(実行力)」を問うたことで、ユーザー企業に対しより具体的なメッセージを伝える段階へと移行したのかもしれない。まず上流概念を周知しその上で施策へ落とすという流れであり、目前のコスト削減に迫られてシステムの仮想化を行うという振る舞いよりも、より志が高いものだと言えるのではないか。

Business without Limits.

IBM マーケティング担当バイスプレジデントのスコット・ヘブナー氏

 初日のゼネラルセッションに登壇したマーケティング担当バイスプレジデントを務めるスコット・ヘブナー氏は「2018年までを対象とした米国労働省の統計によると、ITはあらゆる産業のなかで最も早く成長する産業だ」と紹介する。中でもクラウドの市場は、毎年50%伸びる可能性があるという。これが意味することは「新しいITスキル(の必要性)の波、低コスト化の波、そしてデバイス多様化の波の到来だ」(ヘブナー氏)。そして――これは過去のPulseを通じて常にIBMがメッセージしてきたことだが――「センサーが付与されインテリジェントになった各種のメーター類が地球を覆いつつある」(ヘブナー氏)。

 こういった環境の変化の中でも、ITシステムはビジネスに対し結果をもたらさなければならない。例えばWHOの調査によると、診察を受けた途上国の患者のうち、実に10分の1が病院で治療を受けたことにより症状が悪化している(誤診や処置ミス)のだという。加えて「ここに290億ドルの余分なコストが費やされている」とヘブナー氏は指摘する。途上国の医療をスマート化すれば、より良い診察を、より早く、遠隔地からでも迅速に提供できるというのが同氏の主張だ。

 実際IBMは自然言語能力を備えたスーパーコンピュータ「Watson」について、米WellPointとともに医療分野での利用に取り組んでいる。Watsonが、患者のカルテを約100万冊にのぼる膨大な医療文献と照合・解析し、医師や看護師に見解を返す。これがそのまま医師の診察を決定するわけではない(WellPointは「ドライバーにとってのカーナビのようなもの」と表現している)が、判断する上で大きな助けとなることは想像に難くない。

 データ量のみならず地域についても制限なく、無限にスケールしていくITシステムをどう制御していくか。ヘブナー氏は「可視化できなければ管理できず、管理をしなければコストが掛かる」と指摘する。これこそがTivoliが数年にわたりメッセージしてきた「Visibility、Control、Automation」である。「ビジネスに制限はない(Business without Limits)。それを可能にする(enable)のがITに求められる役割だ」(ヘブナー氏)

IBM ソフトウェアグループのバイスプレジデント、ロバート・ルブラン氏

 次いで登壇したIBM ソフトウェアグループのバイスプレジデント、ロバート・ルブラン氏は「IBMが隔年で実施しているサーベイにおいて、テクノロジーに対するCEOの関心が高まっている」と話す。実際、2004年には6位だったものが、2006年には3位に急進し、直近の2010年調査においては、グローバル化や人材育成よりも高い2位につけている。「次回調査では1位になるのではと予測している」

 この結果は「テクノロジーはビジネスのイネーブラであるべきという、CEOの見解を示すものだ」とルブラン氏は指摘する。経営の意思決定は(テクノロジーにより)俊敏化し、顧客には高い満足を与え、投資家に対しては企業価値を最大化する必要がある。「四半世紀前から見て生き残っている企業は、新しい収益機会を確立した企業だ」

 CEOがこのような見解を持つことによって、CIOの役割も自ずと明確になる。ITによって経営に対し新しい収益機会をもたらすというものだ。「ビジネスラインのリソースやタレントが、イノベーションに専念できる体制を作らなければならない」とルブラン氏は話す。「その手段が、クラウドだ」

 実際、中国のChina Great Wall(中国長城)は、クラウドでサーバの利用効率を30%向上し、それによって新しいレベニューを得たという。また米国の金融機関SunTrustは、マニュアルで実施していたビジネスプロセスの50%を自動化し、従来は3週間かかっていたような顧客対応を2日にまで短縮できたという。

サーベイの結果。CEOがテクノロジーを重視しつつあるトレンドが分かる

 「ただし」とルブラン氏は続ける。「1000必要なサーバを500の物理サーバに統合したら、差分の500イメージを従来とは異なる手法で管理しなければならない」。可視化、自動化ができていなければ、結果としてコストが増すリスクがあるというわけだ。「IT部門がコストプレッシャーを受けているのなら、可視化され、自動化されたクラウド管理環境を検討すべき。さらにアナリティクス基盤を応用すれば、イノベーションを生み出せる」(ルブラン氏)

流行りものなら他社を選べ

Tivoli ゼネラルマネジャーのダニー・サバー氏

 最後に登壇したダニー・サバー Tivoli ゼネラルマネジャーは「今、ITには3つの変革が訪れている」と話す。「50%近いモバイルデバイスがビジネスアプリケーションにアクセスしているという変革、(スマートメーターなど)パッシブでインテリジェントな物理センサーが大量のトラフィックを生み出すという変革、そして1日に130億件ものセキュリティーインシデントが発生しているという変革だ」(サバ―氏)。こういった要因がビジネス環境を複雑化してしまっているというのが同氏の指摘である。

 「孤立したテクノロジーしか持たないプロバイダーからITを調達しても、この問題は解決できない」とサバ―氏は話す。「CIOはテクノロジーの価値をソリューションのコンテクストで評価する必要がる。わたし自身、テクノロジーおたくではあるが(笑)、それではだめだ。技術をビジネスに生かさなければ」

 サバ―氏は、クラウドとモバイルを融合した豪Tennis Australiaの事例を紹介する。トーナメント戦で選手がサーブした瞬間にデータが反映され、観客に対してリアルタイムに、そしてプラットフォームを問わず、試合情報を提供する仕組みだ。これは主催者とIBMの総合的なパートナーシップのもとで構築されたサービスだという。「単なる流行や口当たりの良いマーケティングメッセージを求めるなら他社のものを選択しても良いだろう。だがテクノロジーの使い方を誤ると、ビジネスの前進が止まる。IBMは顧客に対し現実的な(クラウド)ソリューションを提供していく」(サバ―氏)

Tennis Australiaが提供する試合情報の様子

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