デジタルマーケティングの時代

成功するオウンドメディアマーケティング、その理論と実践著者インタビュー(1/2 ページ)

「オウンドメディア」の本質は企業と顧客との継続的なコミュニケーションの実践にある。企業を取り巻く「オウンドメディア」の現状とその効果的な活用法について、先ごろ「オウンドメディアマーケティング」を上梓した井浦知久氏(ユラス 代表取締役)に話を聞いた。

» 2012年05月07日 12時00分 公開
[谷古宇浩司,ITmedia]

マクドナルドの「トクするケータイサイト」はなぜ成功したのか?

 井浦知久氏が日本マクドナルド(以下マクドナルド)の「トクするケータイサイト」開発・運営プロジェクトに参画したのは2008年のこと。さかのぼること2002年にBtoB向けのCRMツール「Marketing Agent2」(MA2)を開発し、大手外資系IT企業数社のマーケティング部門に導入実績のあったことが、同プロジェクト参加の大きな要因であった。

井浦知久氏 ユラス 代表取締役 井浦知久氏

 「トクするケータイサイト」の会員数はおよそ2100万人(2012年3月時点)。会員限定割引クーポン(リーダー/ライターを使ったサービス「かざす会員証」=かざすクーポン)などの特典サービスを軸に、顧客との継続的なコミュニケーションを志向することで、着実に規模を拡大してきた。オウンドメディアを活用したCRM運用の成功例として「トクするケータイサイト」はさまざまな媒体で紹介されているので、ご存知の方も多いだろう。

 「トクするケータイサイト」成功のポイントを井浦氏は「キャンペーン施策を中心に据えたことにある」と指摘する。この指摘は極めてまっとうだが、オウンドメディアマーケティングという文脈において、実は意外と軽視されているポイントである。

 井浦氏が定義するオウンドメディアとは、「顧客との一方向または双方向による継続的な情報の交換を通じて企業の売上に寄与する自社所有のメディア」である。重要なのは、「継続的な情報交換」と「企業の売上に寄与する」という2点だ。前者を実現するための現実的なソリューションとしてCRMのプラットフォームがあり、後者のためには(売上向上に直結する)個別のキャンペーン施策およびキャンペーンの全体戦略が必要とされる。さらにいえば、キャンペーン戦略を中・長期の経営戦略の中に位置づけておくことも求められるだろう。

 つまり、オウンドメディアとCRMプラットフォームは、「経営戦略→キャンペーン戦略→各販促キャンペーン施策」という一連の流れを現実化させるための手段なのである。この認識はとても重要であり、いまさら指摘されるまでもないと考えるマーケティング担当者は多いと思うが、実際、オウンドメディアの構築やCRMプラットフォームの導入が目的化しているケースは少なくないと井浦氏は言う。

オウンドメディアとは「自社会員サイト」のことである

 井浦氏はオウンドメディアを「顧客との一方向または双方向による継続的な情報の交換を通じて企業の売上に寄与する自社所有のメディア」と定義するが、さらにこのようにも規定する。「(オウンドメディアとは)自社サイトではなく、自社会員サイトである」。

 多くの企業はコーポレートサイトあるいはキャンペーンサイトと呼ばれるWebサイトを構築・運営している。通常、われわれがオウンドメディアと言う時、企業が運営するサイト(=自社サイト)もオウンドメディアに含めて考えがちだが、井浦氏は敢えて、「オウンドメディア=自社会員サイト」であるとしている。井浦氏がそう考える背景には、「自社所有のメディアは、アップセルに貢献する戦略的なツールであるべき」という理念が存在しているようにみえる。実際、マクドナルドにとっての「トクするケータイサイト」は“アップセルに貢献する戦略的なツール”であり、同サイトはいまや、同社のビジネスモデルにガッチリと組み込まれていると言っても言い過ぎではない。

 オウンドメディアが企業の経営戦略に“埋め込まれている”場合、(オウンドメディアの)具体的な機能は以下のようになると井浦氏は言う。

  • 「自前の放送局」を通じて、顧客に対しダイレクトにメッセージを伝える
  • マーケティング施策を通じて継続的な関係を作り、絆を深める
  • 顧客にとってのファーストチョイスとなり、企業のビジネスモデルの一部となる

 オウンドメディアの機能が「企業紹介を行うカタログ的なもの」に留まっている場合、上記のような役割を果たすことは大変困難である。つまり、顧客に直接メッセージを送り、継続的な関係を構築するには会員サイトである方が望ましいということである。

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