危機は突然企業を襲う、ITを駆使した変革が生き残りのカギ

日本のお家芸のひとつだった家電やAV機器が急速にその競争力を失っている。その凋落に驚くばかりだが、企業が生き残るためには他社が出来ないことをやらなければならない。「ITを駆使した変革がカギ」と日本IBMでソフトウェア事業を統括するマハジャン専務は話す。

» 2012年09月10日 08時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]
日本IBMのマハジャン専務

 「企業を取り巻く環境は、複雑さが増しているのはもちろんのこと、その変化がある日突然やってくる。絶え間ない変革が求められている」── こう話すのは日本アイ・ビー・エムでソフトウェア事業を統括するヴィヴェック・マハジャン専務だ。

 彼の言葉を待つまでもなく、日本のお家芸のひとつだった家電やオーディオ/ビジュアル機器は、急速にその競争力を失ってしまった。何十万人もの従業員を雇用する名だたる大企業のあっと言う間の凋落には背筋が寒くなる思いだ。

 インドから米国へ渡り、大学院で電気工学と経営学を学んだマハジャン氏は、Tandem ComputersやGeneral Electricで働いたのち、10年ほど前からSiebel Systems日本法人の責任者として日本企業とかかわってきた。

 「ほかのどの国よりも人材の平均的な水準が高い日本は、チームワークに強みがある。合意形成に時間が掛かるものの、方向性さえ決まれば、最後までしっかりとやり切る。日本はそれを誇りとすべきだ」とマハジャン氏。

 しばしば過剰とも指摘される顧客中心のサービスもマハジャン氏は日本の大きな強みだという。

 「“お客様は神様”という言葉があるように、顧客の声に耳を傾け、商品やサービスを改善することを得意とする」(マハジャン氏)

 しかし、新世紀に入ってより大きなうねりととなったデジタル化とグローバル化の波は、世界のどこでもほぼ水準の変わらない製品づくりを可能としている。

 マハジャン氏も働いたGEは、トーマス・エジソンの電気照明会社を起源とする世界最大の複合企業だ。19世紀末にダウ平均株価の銘柄に選ばれて以来、百年以上もその座を維持してきた唯一の企業であり、この間、同社はエネルギーインフラ、素材、航空宇宙、金融、ヘルスケアへと事業領域を拡大してきた。ジャック・ウェルチ前CEOがピーター・ドラッカー博士に助言を仰いだ「選択と集中」はあまりにも有名。「1位か2位になれない事業からは撤退する」というダイナミックな企業経営で同社を再生した。

 わが国を代表する老舗化学企業の東レも幾つかの節目で大きな変革を実現してきた。大正末期、レーヨンの生産からスタートした同社だが、戦後はナイロンなどの合成繊維で成長、1960年代には花形企業となる。'70年代に入るとニクソンショックによる円高や日米繊維協定、さらにはオイルショックが追い打ちとなり、一気に危機に陥ったが、多角化と海外生産化を進めることで、新たな東レの道を切り開いてきた。ボーイング787に採用され、にわかに脚光を浴びている炭素繊維も50年以上の研究開発が実を結んだもので、危機を変革に結びつけた例と言えるだろう。

 「もちろん変革のスピードは企業ごとに異なり、それぞれの企業に合ったものであるべきだが、企業が生き残るためには他社が出来ないことやらなければならない。商品やサービスはいずれコモディティー化する」とマハジャン氏。

 昨年百周年を祝ったIBMの歴史も変革の歩みと言っていい。自ら発明したDRAMやPCもコモディティー化すれば、他社へ事業譲渡し、より価値の高い事業に軸足を移してきた。今や同社の利益の半分はソフトウェアが稼ぎ、さらに価値の高いソリューションとして「Smarter Planet」や「Smarter Enterprise」を提案する。

 「インターネットやソーシャルメディアによって売り手と買い手の力関係はすっかり逆転してしまった。優れた製品づくりはもちろん大切だが、ミドルウェアを効果的に活用して柔軟かつ低コストのIT基盤を構築、さらにSmarter Commerceのようなソリューションを駆使して顧客の気持ちをつかまなければビジネスはできない」とマハジャン氏は話す。

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