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» 2012年09月21日 08時00分 公開

“迷探偵”ハギーのテクノロジー裏話:Appleはなぜ自ら衰退の道を選ぶのか (2/2)

[萩原栄幸,ITmedia]
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ゴルフクラブの握り方とブランコの乗り方に「特許」

 それは「ゴルフクラブの握り方」に関する特許だ。本件は2つに分れ、1つは1997年4月に登録された米国特許第5616089号の「パッティング方法」である。簡単に言えば、片方の手の5本の指でグリップを強く握り、もう片方のグリップを握った方の手首を握って、パターのトップが一定になるようにクラブを動かすという感じだ。

 もう1つは、長尺のゴルフパターを使ったパッティング方法の特許。これは日本で申請されている。出願が1993年5月で、特許公表平8−501705「長尺ゴルフパターおよびパッティング方法」だ。このような状況でのビジネスモデル特許という新しい考えが混在し、誰が調べたかは定かではないが、その頃に「特許」という考え方が大きく変わる出来事になった。(参考:特許電子図書館

 この要約によれば、「本発明により構成されたパターを使用したパッティング方法もまた開示され、ここで長尺シャフトは概して通常のパッティングリップで保持されるが、中央安定化部分はゴルファの腕の屈曲部内に受け入れられまた上部安定化部分は上腕の外側部分に接触している。長尺パターを用いてこのようにパッティングすることにより、ゴルファの手首および前腕が曲がったり折れたりしないように拘束され、これによりパッティングの確実性を向上させることが可能である」と記載されている。

 2007年にも実用新案で「ゴルフクラブパター、手袋およびパッティング方法」が出願されているが、これは内容的に専用のゴルフクラブが必要なので評価外であろう。この2つの特許のどちらにも言いたいのが、これは「どうやって特許侵害を認めさせるのか」「どうやって訴訟を起こすのか」ということだ。少し考えると納得し難い点が多く、「特許」の虚しさを感じたものだった。

 もう1つの出来事とは、「ブランコの乗り方」に関する特許だ。これは米国特許第6368536号で、内容はまさしく「ブランコの乗り方」に関するものである。ただし、本件はその後に特許業界が問題視した結果、現在では「無効」になっている。それは当然だろう。なにせブランコを横に揺らす乗り方だからだ。要するに、横に揺らしてブランコを乗る方法を選択したこどもたちは全て特許損害となり、親がその代価を払うという、世にも不思議な可能性を持つ特許だった。

 このように普通の感覚からすると「おかしい」という特許は、実はかなり多い。単に実害としていない(ゴルフの件など)ので放置されている場合がほとんどだ。筆者が思うに、Appleが訴える特許も真剣に考えてみれば、バカバカしくなるものが多い。Motorolaを訴えたAppleの訴状を見て、あきれ返った判事もいるとも聞く。この判事は、「Appleは特許制度と司法制度を悪用している」としてAppleの訴えを退けたという。筆者の感覚も判事と似ている。

 だが、現実には逆の判決も出ている。米国カリフォルニア州の連邦地裁の陪審員は、Appleの主張を認めてSamsungに約10億5000万ドルの損害賠償の支払いを命じている。「上級審で覆されるだろう」と、もっぱらの評判にはなっているとか。この裁判所は北部地区連邦地裁であり、Apple本社からわずか15キロしか離れていない。「地元有利」による評決かと勘繰りたくもなってしまう。

Appleはどこへ行く?

 Appleは、確かにAndroidによって大きな打撃を受けている。米国で旧世代のiPhoneがキャリアとの契約プランによっては無償で購入できるようになったのも、Androidの影響だろう。だが、その対抗策である訴訟合戦は絶対にすべきではないと筆者は思える。多額の訴訟費用は結局、利用者が負担しているのと同じだ。そんなことに多額のお金を費やすより、もっと研究に投資してほしい。だが実際は逆になっている。公開情報を見ても、Appleの研究開発費は収益の2%。しかし、ライバルは違う。Android開発元であるGoogleは14%にもなっているのだ。本当にこれでいいのだろうか。

 技術を特許で守る必要性は理解できるが、それと排他的な経営をすることとは違う。「ベータ vs VHS」、もっと言えば「Mac vs Windows」でも最初に市場に出たのはMacであるのに、なぜPC分野のデファクトになり得なかったのか。こういう歴史を学んでいるはずなのに、Appleはなぜ再び「敗れる方向」に行こうとするのか。

 仮に、Appleの狙い通りにライバルが消え、1社独占となった世界でどのくらいITが進歩するのだろうか。凡人の筆者でも、誰もが望まない状況になるだろうと容易に察しがつく。ライバルと競い合い、その中でさまざまなアイデア、技術が生まれる。そうして成長していく方が素晴らしい世の中になることは、歴史が証明している。時価総額世界一のAppleにとって、今こそ、この方向を変わるチャンスなのではないか。「技術は自分だけのもの」という考えではなく、「広く人類の成長のためにも」という視点を持つことが、時価総額世界一の企業の役目ではないだろうか。何でもそうだが、「1社独占」「1つの思想」ではいずれうまくいかなくなることは、歴史が証明している。長方形デザインなどの「特許」のために巨費を投じて訴訟することが、Appleのメリットになるのだろうか(訴訟全てが悪いとは思わないが)。

 この先数年もAppleは「わが世の春」を謳歌できるだろう。しかしその間の行為が呆れたものなら、どんなに天才的、革新的な製品を生み出してもすぐに色あせてしまい、残念な評価しかされない企業に堕ちていくだろう。今の訴訟合戦はあまりにも姑息で醜悪な行動にしか筆者には映らないのである。Apple好きだからこそ、もっとAppleには「技術の核」として、市場でも技術でもライバルを凌駕し、勝利してほしい。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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