いじめ報道とパワハラの共通点“迷探偵”ハギーのテクノロジー裏話(2/2 ページ)

» 2013年03月01日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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「いじめ自殺」事件の見解

 誤解を恐れずあえて言えば、先生を善人扱いするつもりはない。生徒を自殺させてしまったということは事実であるが、一方で世間のいう本当に変な先生、ごう慢な先生だったのかという疑問がある。パワハラ教育やコンプライアンス教育、情報セキュリティ教育などを真剣にお聞きになられた先生なら、こういう悲劇を避けられたと思えるからだ。それはなぜか。

 パワハラは、「それをした側がどう考えて行動したか」という観点は原則として一切関係ない。唯一それを受けた側が「どう感じたのか?」なのである。だから、「もしイケメンで未婚で大好きなNさんならどんな発言もOKです」となる。つまり、パワハラ要件を満たさない。しかし中年で、既婚で脂ぎった体型の上司のM課長の発言なら、即刻パワハラとなる。

 これをいじめに当てはめてみるとよく分かる。つまり、その先生は多分熱血漢(と信じたい)で、「何とかいい方向に生徒を導いてあげたい」と信じて指導をしたつもりだろう。だが人間であり、個人的感情に左右された行動も加わって過剰な行動をとってしまった。ここは不適切ではある。それを全員の子どもたちに一律に、しかも個人の性格を判断せずに行ってしまった。本人に対して「部長だからこのくらいは考えろ」と思ったに違いない。

 ここで重要なことは、した側(教師側)の考えは関係なく、その言動や行動から受けた人間(生徒)がどう感じたかである。ここを先生は考慮しなかったのだ。

 くれぐれもお伝えしたいのは、自殺という取り返しのつかない結果を招く事態になぜ至ったのかを、理解するということである。いじめを経験した筆者としても、行為を受けた人間の心の叫びが手を取るように理解できる。そのSOSを誰かが気が付けば……。そう思うと、とても残念なのである。

 「体罰は絶対にダメ!」という声も良く分かる。しかし、日本語は誤解を招きやすい。体罰の定義とは何かをきちんとマスコミが示し、「殴る=悪」と短絡的に決め付けず、その行為の上に「愛情」が加味されているのかといった点を検証すべきだ。殴った場合のメンタルケアもあるし、個人の性格からみて「殴るべき相手ではない」という性格の人間もいる。だからこそ、「殴る」という行為のリスクと効果をよく見極め、「道徳」として昇華した行為にしていくべきなのだ。

 今回の事件とマスコミの偏向報道によって、先生方は「愛情のこもったゲンコツ(筆者もいたずらするたびにされた)」を行使できなくなったのではないだろうか。決して暴力を「是」とするつもりではない。それは、「道徳」面からみて良いこととは思えないのだ。

 生徒を自殺に追い込んだ教師の処分を軽くするようにと、たくさんの嘆願書が届いたという。自殺した生徒の高校の生徒ということで、世間ではまた別の「いじめ」が発生しており、それこそ本末転倒ではないかと思う。

 この問題は考えれば考えるほど根が深く、関係しない人はまずいないはずとさえ思う。日本人の周りに合わせる性質や戦前の隣組の問題などと併せて議論されているところもある。そうした中で今回は、熱血先生が生徒のとてもか細い精神構造を思いやることなく、「今までと同じ」ように接したこと、そして、それが「いじめ役」「いじめられ役」という構造になり、悲劇に至ったのではないか。

 SOSをたぶん出し続けていたはずだ。それを救える指導を今後の教育委員会なり学校なりが真剣に考え、いつも隠ぺいするのではなく、ITと同じ「見える化」することがベストであると論理的に考えてくれるようになってほしい。いじめられている時に真剣に自殺を考えていた筆者としては、心からこの自殺問題を真正面から考え、教育全体が変化することを願うばかりである。

変更履歴……記事内容を踏まえまして「セクハラ」の表現を「パワハラ」に変更いたしました。(編集部:2013/3/1,14:55)

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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