「私用メール」をめぐる会社と組合の対立 組織に潜む闇萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/2 ページ)

» 2013年07月26日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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回答

 本事案のポイントは、(1)会社で日常的にメールチェックを行っていることが周知されていない、(2)当事者であるCさんと上司のD課長との関係――の2つになるだろう。筆者がそれぞれのポイントについて示した対応策は次の通りだ。

メールチェックは事前に通知すべし

 まず、就業規則にある「私用メールは禁止」という内容は、法令その他の慣例から逸脱しかねないものであり、この表現を改正すべきである。判例では1日数通程度の、しかも、業務に支障をきたさない長さの文章や内容であれば「OK」とされている。ただし内容が会社の名誉に関わるもの、例えば、売春や不法ドラッグのようなものであれば、最悪の場合に当事者が懲戒免職に至る例もある。

 また会社がメールをチェックしているということを全従業員に通知すべきだろう。メールチェックが法令に抵触ということはないものの、従業員への事前通知を行わずにチェックしていたとなれば、従業員から「プライバシーが侵害された」「事前合意がない」として訴訟沙汰になりかねず、裁判上でも会社側が不利になることもあり得る。

 「事前通知は必要ない」とする弁護士の見解もあるものの、実際の職場でトラブルを軽減するために、事前通知は必須ともいえる取り組みになる。特に入社時点における誓約書や情報セキュリティに関する合意書の中で、「会社のメールおよびメールアドレスは会社の資産であり、これらの資産を利用する以上、企業としてその確認行為を行う場合がある」と文書に記載し、従業員から署名と捺印を取る。

 A社の場合、メールチェックに関する明示的な規則やルールが無いので、速やかにその体制を従業員に周知して、メールの管理における「見える化」を推進することが求められる。企業の中にはワンマン社長が趣味でメールをチェックしたり、社内でのペナルティを社長個人の采配で決めたりしているケースが散見される。これでは「のぞき見趣味」「人事権・解雇権の濫用」と従業員から訴えられてもおかしくない。例えば、懲罰委員会などの場で正当な処分を検討し、対応するといった体制が望まれる。

上司と部下の関係に着目する

 もう1つのポイントであるCさんとD課長との関係について、本事案に至った背景には、両者の間に“何らかのしこり”があったと考えるべきだろう。

 会社側がD課長の報告だけを聞いて処分を下すとなれば、管理権限の無いCさんが不利になることは明らかだ。Cさんが違反事実を認めながらも、会社側の判断に徹底して抵抗するにはそれなりの理由がある(本事案ではD課長が虚偽報告した)。

 CさんとD課長の主張の違いから水掛け論になった場合、会社側としては「疑わしきは罰せず」のスタンスが重要である。権限の上下間におけるトラブルにおいて通常は、権限の小さな方の人の立場で熟慮することが求められる。

 本事案での会社側の対処については、「けんか両成敗」とすることが望ましい。Cさんに厳重注意するとともに、D課長にも厳重注意を行い、今後の動向を見守るのがベストだと思われる。

 Cさんには不服かもしれないが、筆者がCさんの同僚にもヒアリングした結果、実は「Cさんも悪い」と話す人が過半数もいた。よって、Cさんも自身の行為を謙虚に反省すべきだろう。D課長の虚偽申告はさらにいけないものだが、せいぜい五十歩百歩である。もしまたこういう騒動に至った場合、両者にはそれなりの覚悟を決めてもらう事態になることを肝に銘じていただきたい。


 さて、Cさんと会社側の間に立たされた労働組合については、筆者がBさんへのヒアリングから残念に感じた点を改善してもらうように提案した。それは、世間の動向をよく把握しておき、「社内の常識=世間の非常識」に陥らないようもっと勉強してほしいというものだ。

 特にパワハラやセクハラ、雇い止め、プライバシー侵害などについては、基本的な内容すら無知の方が多いのが現実である。「御用組合」と言われる企業の組合ほど、よく「20年前はこうだった……」と昔話をされる。従業員と会社の関係を適切なものにしていくためにも、最低でも毎年できれば年に2、3回は、勉強会や外部講師による研修を実施して学んでいただきたい。

 これは筆者が企業の相談を日々受ける中で強く思うところでだ。情報セキュリティなどは、たった1年で状況が様変わりしている時代なのだから。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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