「先進テクノロジのハイプ・サイクル 2013年」では人間とマシンの関係をテーマに、3つのトレンドおよび要素について解説している。
ガートナー ジャパンは9月3日、先進技術の動向を予測するレポートの最新版「先進テクノロジのハイプ・サイクル 2013年」を発表した。同レポートでは人とマシンの進化する関係をテーマに、企業がこの先進技術を取り込む上で考慮すべきトレンドや要素について解説している。
ハイプ・サイクルは2000以上の技術を98分野にグループ化し、成熟度や企業にもたらすメリット、今後の方向性に関する分析情報を企業の戦略/企画担当者に提供している。2013年版では人とマシンの進化する関係に焦点を当てており、「テクノロジによる人間の能力の増大」「人が行っていた仕事のマシンによる代行」「人とマシンのコラボレーション」の3つのトレンドがあるとしている。
リサーチ担当バイスプレジデントのハン・ルホン氏は、未来の企業が3つのトレンドを組み合わせて、生産性の向上、市民および顧客の利用環境の変革、競合優位性の獲得を図るようになるとの見解を示す。また、3つのトレンドが、人とマシンの関係の基盤に両者の関係をサポートする3つの要素――「マシンによる人と環境の認識力の向上」「マシンへの人の理解の高まり」「両者連携で賢くなること」――によって支えられるとコメントしておる。
同社が示した3つのトレンドおよび要素の内容は次の通り。
テクノロジによる人間の能力の増大
技術によって、身体、感情、認知の分野において人間の能力を増大させることが可能になる。このような技術による人間の能力の増大が企業にもたらす最も大きなメリットは、労働力の向上である。例えば、製品やサービスに関するあらゆる質問に答えることができたり、いつでも任意のエンタプライズ・データを獲得できたりするウェアラブル・テクノロジを全ての従業員が利用できれば、生産性、営業能力、顧客へのサービス提供能力は飛躍的に向上するだろう。これらの技術に関心のある企業であれば、生体音センサ、自己の量的観測(Quantified Self:QS[人間の行動や状態の定量的観測による知見の発見])、3Dバイオプリンティング、ブレーン・コンピュータ・インタフェース、ヒューマン・オーグメンテーション、音声翻訳、ニューロ・ビジネス、ウェアラブル・ユーザー・インタフェース、拡張現実(AR)、ジェスチャ・コントロールなどを注視する必要がある。
マシンによる人間の作業の代行
危険な作業、簡単だがコストがかさむ仕事、反復的な作業など、明らかにマシンが人に代わって作業を行える機会は存在する。人に代わってマシンに作業を行わせる最大のメリットは、生産性の向上や人体への危険の軽減に加え、場合によっては人が行うよりも質やレスポンスが高いことがある。例えば、高い能力を有する仮想顧客サービスエージェントであれば、最新情報を背景に顧客から寄せられる多くの単純な質問への回答を提供し、顧客サービスエージェントの「煩雑な仕事」の量を大幅に削減することができる。企業は、立体ホログラフィック・ディスプレイ、自律走行車、モバイル・ロボット、仮想アシスタントなど、マシンが人を代行する革新技術に目を向ける必要がある。
人とマシンのコラボレーション
人とマシンの関係は白か黒かといった二律背反的なものではなく、人とマシンが連携することでより良い成果を挙げられることもある。現在、人と連携して機能する新しい世代のロボットの製作が進められており、例えば、IBMが開発した質疑応答システム「Watson」は、医師のリサーチアシスタントとして機能することでバックグラウンドの調査を実行し、診断を下したり治療法を提案したりする際に最新の臨床情報、調査情報、その他の情報を提供する。このような人とマシンの連携による最大のメリットは、人とマシンそれぞれの分野の最高の要素を組み合わせられる点(マシンの生産性とスピード、未知の対象を取り扱うための人の感情知性と能力)にある。このトレンドを支える代表的な技術には、自律走行車、モバイル・ロボット、自然言語による質疑応答システム、仮想アシスタントなどがある。
マシンによる人と環境の認識力の向上
マシンおよびシステムは、人の立場からの視点、人、および人の感情に対する理解を深めることで、初めて価値を発揮できる。このような理解によって、例えば、ユーザーの現在地に最も近い場所を対象としたビジネスに関するレポートの表示といった状況認識に基づくシンプルなやりとり、Facebookへの書き込みの分析による新しい製品ラインに対する顧客感情の評価といった顧客理解の向上、顧客からの問い合わせに対して自然言語で応答するバーチャル・アシスタントなどが可能になる。今回のハイプ・サイクルで網羅しているこれらの能力を代表する技術には、生体音センサ、スマート・ダスト、自己の量的観測(QS)、ブレーン・コンピュータ・インタフェース、アフェクティブ・コンピューティング、バイオチップ、3Dスキャナ、自然言語質疑応答(NLQA)、コンテンツ分析、モバイル・ヘルス・モニタリング、ジェスチャ・コントロール、アクティビティ・ストリーム、生体認証、ロケーション・インテリジェンス、音声認識などがある。
マシンへの人の理解の高まり
マシンがより賢くなり、人手による作業の自動化が進むのに伴い、人はマシンを信頼し、安全であると感じる必要がある。モノのインターネットの基盤になっている技術は、マシンの動きやマシンを取り巻く環境への可視性を高める役割を果たす。例えば、IBMのWatsonはユーザーに提供する回答の「信頼度」を提示し、Baxterはどうすべきか判断できないときに困惑の表情を示す。ほかにも、マサチューセッツ工科大学では視覚センサと音声センサから社会的意味を検出し、理解していることを表情で示すロボット「Kismet」の研究を行っている。このような技術は、人とマシンが連携していく上で非常に大切な役割を果たす。2013年のハイプ・サイクルではモノのインターネット、マシン対マシン・コミュニケーション・サービス、メッシュ・ネットワーク:センサおよびアクティビティ・ストリームを網羅している。
より賢くなる人とマシン
ビッグ・データ、アナリティクス、コグニティブ・コンピューティングの大きな波は、人には意思決定支援と自動化を、マシンには認識能力とインテリジェンスをもたらすだろう。これらの技術を使用することで、人とモノはより賢くなることができる。例えば、NLQAによって顧客サービスのバーチャル・エージェントの能力が高まるとともに、医師がNLQAを使用することで大量の医学雑誌と臨床試験からの情報をチェックし、病気の診断に活用したり、適切な治療計画を判断したりすることができる。デジタルの未来に向かっている現在、このような支援技術は人とマシンの両方にとって基礎的な位置付けとなる。企業は量子コンピューティングやプリスクリプティブ分析、ニューロ・ビジネス、NLQA、ビッグ・データ、複合イベント処理、インメモリ・データベース管理システム、クラウド・コンピューティング、インメモリ分析、予測分析などの技術に目を向ける必要がある。
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