Appleが先週、新型「iPhone」の投入とともに、日本市場でNTTドコモと提携することを発表した。この動きはクラウドサービス市場にも大きなインパクトを与えそうだ。
米Appleが9月10日(現地時間)、スマートフォン「iPhone」の新型2モデルを同20日に日米中など9カ国で発売すると発表した。上位モデルの「5s」に加え、価格を抑えた「5c」も同時に投入し、利用者の幅を広げる考えだ。
この発表と同時に、日本市場ではNTTドコモがiPhoneを取り扱うことも明らかになった。これによって国内携帯大手3社がすべてiPhoneを取り扱うことになる。今後NTTドコモの新規契約の4割程度がiPhoneになると見られており、日本市場でのiPhoneのシェアが一層伸びるのは間違いなさそうだ。
NTTドコモがiPhoneを取り扱うようになったことから、国内携帯大手3社による三つ巴の戦いが注目されているが、本稿では視点を変えて今回の動きが今後のクラウドサービス市場にもたらすインパクトについて考えてみたい。
iPhoneのシェアが高まると、クラウドサービス市場にどんなインパクトがあるのか。それは取りも直さず、AppleのクラウドサービスがiPhoneを通じてさらに拡大し、同市場で今以上に一大勢力になる可能性があるということだ。
Appleは単にデバイスのシェア争いだけで優位に立とうとしているのではない。同社の狙いは、2年余り前にCEOを務めていた故スティーブ・ジョブズ氏がプライベートイベントで語った次の言葉に集約される。
「10年前はPCがデジタルライフのハブ(中枢)になると考えたが、状況が変わった。これからはクラウドがハブとなり、PCも1つのデバイスとしてつながっていく」
時代の変化を象徴するジョブズ氏のこの発言を機に、Appleはクラウドサービス「iCloud」の展開に打って出た。iCloudは、音楽配信サービス「iTunes」をはじめとする同社のさまざまなオンラインサービスの基盤となるものである。
そのプライベートイベントで、AppleはiCloud戦略についてこんなメッセージも発信している。
「OS、アプリケーション、アプリケーション上のデータといった3つのすべてについてデバイスを越えて同期できるのは、ただのハードウェアメーカーでもなければ、ただのOSメーカーでもなく、ただのアプリケーション開発会社でもなく、そしてただのネットワークサービス会社でもない、これらをすべて手掛ける垂直統合型企業のAppleだけだ」
実は、この2年余り前のAppleの動きについては、当時の本コラムで「Appleが企業向けクラウドサービスに参入する日」と題して取り上げた。今回はいわばその続編で、「参入」ではなく「本格参入」とした。
本格参入としたのは、最近になってAppleがiCloudを基盤としたオフィススイート「iWork」を提供し始めたからだ。iWorkは米Microsoftや米Googleのオフィススイートに相当するもので、MicrosoftのWordやExcelのファイルもデスクトップからドラッグ&ドロップすることができるという。これをもって企業向けニーズにも応えていこうというAppleの思惑がうかがえる。
Appleが展開する垂直統合型ビジネスモデルは、端的に言えば、クラウドサービスとデバイスによる最適化された利用環境から成り立っていると見て取れる。同様のアプローチでAppleに先行して企業向けニーズに応えているのは、先ほどのオフィススイートでも競合関係にあるMicrosoftとGoogleである。
デバイスの観点から見れば、MicrosoftはWindowsをベースにPC市場で圧倒的な存在感を持ち、GoogleはAndroidをベースにスマートフォンやタブレット市場で勢力を拡大しつつある。ただ、両社ともAppleほどの垂直統合型ビジネスモデルではなく、エコシステムの形成を重視しているように見受けられるが、とどのつまり、クラウドサービスの提供元であることへのこだわりは3社とも同じだと見ていいだろう。
ちなみに、前回の本コラムで「Nokiaの携帯端末事業を買収したMicrosoftの思惑」と題して、「デバイス&サービス会社への変革」をスローガンに掲げたMicrosoftが、ついにスマートフォンの開発・販売を自ら手掛けるようになった背景や狙いを解説したが、このMicrosoftの動きと今回のAppleの動きこそ、近い将来に巻き起こるクラウドサービス大戦の前触れのような気がしてならない。
もう1つ、Appleが企業向けクラウドサービスに本格参入することを想定したときに興味深いのは、企業向けビジネスで実績や経験を持つ有力ベンダーと手を組む可能性があるのではないか、ということだ。大手ベンダーと組むとしたら、デバイス事業の有無をはじめとして、できるだけ補完関係を見出せるほうがいいだろう。垂直統合型ビジネスモデルに執着し続けるのかどうかも気になるところだ。
そのうち、あっと驚く提携(買収かも)が発表されても不思議ではない。
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