死蔵状態から全社展開へ、社員が育てた三城HDのiPad活用文化基幹システムにもつなげる(1/2 ページ)

メガネ販売の三城ホールディングスは、2011年に1000台のiPadを店舗導入したが、導入後に“死蔵化”したという。そこから社員の手でiPadの活用文化を作り、現在は社員向けに4000台を追加展開するまでになった。その取り組みを聞いた。

» 2013年11月19日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 「メガネの三城」や「パリミキ」で知られるメガネ販売大手の三城ホールディングスは、2011年に全国約1000店舗へiPadを導入した。当時は登場間もないiPadを大規模導入する先駆的な事例として注目を集めたが、実は導入後に店舗で“死蔵化”してしまうケースが相次いだ。現在は社員向けに4000台を追加導入中だが、その背景には社員によるiPad活用文化の創造と定着があった。これまでの道のりを同社Digital Device Solutionsの河村和典氏に聞いた。

効果の見えない1年半

三城ホールディングス Digital Device Solutions J&T DREAM CHANCEの河村和典氏

 三城ホールディングスがiPadの店舗導入を表明したのは2010年秋のこと。同年春に発表されたばかりのiPadをすぐに米国から調達し、「年配者でも使いやすい」との感触を得てトップダウンでの導入が決まった。「お客様は店舗でメガネ選びや視力検査、レンズの調整など長い時間を過ごされるため、その間にiPadで楽しんでいただきたいと考えた」(河村氏)という。

 初期導入では多くの苦労があった。当時のiPadは個人利用が中心であり、企業での大規模導入や展開、運用に必要な手段がほとんど無いため、セキュリティ対策の検討からキッティング手順の作成、1000台を調達できるパートナーの選定、来店客が利用するアプリ(数千種類のメガネから自分が試着した時のイメージを確認できる)の開発といった、さまざまな課題を自前でクリアしていかなければならなかった。

 例えば、同社ではコスト面からWi-Fiモデルを採用したが、そのまま店舗のLANへ接続させるわけにはいかなかったという。iPadをLANにつなげることのリスクがまだ不明瞭であった時期だけに、ネットワークはモバイルWi-Fiルーター経由でインターネットに接続するだけとした。アプリもAppStoreから追加インストールできないようにしていた。

 こうした導入に伴う費用は、端末本体やキッティング作業、ネットワーク関連などで総額1億数千万円にも上った。さらに、店舗展開の途中では東日本大震災が発生し、国内の物流網の寸断などによって一時的にストップすることもあった。こうしたさまざまな苦難を乗り越え、2011年夏に1000台のiPadの展開を終えた。ところが、iPadの導入効果について河村氏は「1年半ほどの間では明確なものは得られなかった」と話す。

 その原因は上述した“ガチガチ”のセキュリティ対策にあったという。店舗で利用できる機能はメガネの試着アプリとネット閲覧に限られ、しかも端末が1台しかないことから、社員が日常業務で活用するというものにはならなかった。「店舗で社員がお互いに譲り合ってしまい、結果的に使われず、お客様が時々使う程度でほとんど死蔵化している店舗もあった」(河村氏)

 その後、同社のFacebookページを閲覧できるアプリを自社開発して店舗のiPadに配布する取り組みなども行ったが、社員からは顧客情報の検索や閲覧、メガネの電子カタログ化など業務に必要な機能を求める声が挙がった。そこで同社は全国展開したiPadを回収し、セキュリティポリシーや対策機能を変更したうえで改めてキッティングを行い、再び全国の店舗へ展開し直した。

 河村氏によれば、こうした技術面の対応だけでは不十分であり、社員が本当の意味で活用していく環境作りを重視した。最初の店舗展開でiPadを使うことに興味を持った社員もいたことから、こうした社員を「エバンジェリスト」に登用し、店舗でiPadを活用する文化の醸成に取り組み始めたという。

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