ビッグデータ時代の情報基盤という存在に アグラ田中克己の「ニッポンのIT企業」

企業に散在するバラバラなデータをつなぐデータ統合基盤ソフトを開発・販売するアグラは、ソリューション提供へと事業範囲を広げている。その狙いとは――。

» 2013年12月03日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 企業内のバラバラなデータをつなぐデータ統合基盤ソフト「AGRA」を開発、販売するITベンチャーのアグラがソフト単体販売からソリューション提供へと事業範囲を広げている。製造業における部品調達コスト削減や在庫削減など、データ統合と活用による有効性を証明するためでもある。非定形データを含めたデータ活用へとビッグデータ時代に対応する機能拡充も進めている。

最初にコンサルサービスから始めたわけ

 ある製造業がAGRAを活用して部材調達のコスト削減に着手した。各工場がどんな価格で部材調達しているか実態を把握し、そこから仕入先やメーカーを絞り込み適正な価格での調達に切り替える。年数%の調達金額を下げられる見込みだという。

 ある大手IT企業は、合併対象10社の顧客マスターがバラバラで、顧客ごとに取引実績を素早くつかめない。しかも、次年度の経営計画策定までの時間がなく、手作業では煩雑すぎて間に合わないという問題を抱えていた。そこで、AGRAを使って、親会社の顧客マスターをベースに合併子会社のマスターをマッピングするなどし、3カ月で顧客マスターの統合と受注実績集計を実現した。

 あるソフト販売会社は顧客サービス向上にAGRAを使う。営業、受注〜出荷、請求、保守契約、コールセンターのシステムがバラバラで顧客の最新状況を正しく把握できず、適切なサービスや提案ができなかった。そこで、各システムのデータを顧客企業名で集約できる名寄せキーを付与するなどし、3カ月で顧客カルテを完成させたという。

 多くのユーザー企業は、こうしたデータ統合と活用をERPや部材調達ソフトなどで実現しようとする。だが、必要なデータが入っていなかったり、入力フォーマットが拠点ごとに異なっていたりする。部品などのマスター番号が共通化されていないこともある。結果、手作業が多く発生し、経営者の要求するデータを作成するのに時間がかかってしまう。

 アグラの丹下博詞社長は「そもそもデータが整理されていないので、つなげられない」と問題点を指摘する。データを整理していても、マスター統合に1年から2年の期間を費やしていたら、システムが稼働したころ、その企業を取り巻く経営環境が大きく変化している。「経営のスピードに追い付けないIT投資は無駄」となり、データ統合をあきらめる。そんなユーザーは少なくないという。

 ところが、「マスター統合プロジェクトを立ち上げたいユーザーに話をよく聞くと、目的はデータの可視化にある」(丹下社長)ことが分かる。ERPを導入しても、根本的な問題は解決できないので、データの抽出や加工などのETLツールを使ったり、IT企業にデータ・クレンジングを依頼したりする。だが、「データをハンドリングできる人材が少ない」(丹下社長)。

 そのため、アグラは約1年前からデータ整理などのコンサルティングを始めた。例えば、「売り上げとは何か」を定義し、拠点ごとに意味や計上方法が異なっていたら、統一していく。そんなことを繰り返しながら、データを集計、分析できるようにする。先の製造業の場合、3カ月で工場の部材調達を可視化できたという。どの商品がどの地域で、どの販売ルートを通じて売れたのか、といった売上分析へと適用範囲を広げていくことも可能になる。

 丹下社長は「データを整理、統合するだけで、コスト削減など劇的な効果を上がられることを知ってほしい」と訴える。同社がコンサルティングから乗り出した大きな理由でもある。

データをつなぐ市場規模は2500億円超

 2008年に設立したアグラが、2012年に請け負ったデータの整理、統合に関するシステム案件は8件に上る。丹下社長は「すべてカットオーバーし、成果が出ている」と自信を示す。大きなビジネスチャンスもあり、2013年以降、倍々の成長を見込んでいる。購買や売り上げ、顧客など可視化したい案件は数多くあり、「これだけでも市場規模は最低で2500億円ある」(同)と見積もる。

 だが、やはり人材確保が課題になる。「SQL文を使って、データを取り出せるなどの技術を持つデータベース(DB)技術者は即戦力になる」(丹下社長)ことが分かったアグラは、2012年早々からDB技術者の採用を始めた。社員は設立時の5人から、現在(13年10月時点)はパートナー企業からの派遣を含めて約25人に増えた。とはいっても、アグラ1社ですべての案件をこなせるはずはない。パートナーとの協業が欠かせない。「当社だけなら、シェアは1%程度しかとれないだろうが、パートナーと組めば10%のシェアをとれる可能性がある」と、丹下社長は期待する。目下のところ、約5社のIT企業と協業する。

 パートナーとなるIT企業がAGRAを扱いやすいよう機能拡充も図る。例えば、既存のDBやエクセルなどの定形データの可視化に加えて、非定形データを検索する機能を用意する計画。定形データと非定形データをつなぐことで、異なる見方もできる。例えば。収集した市場データと在庫データをつなぐことで、商品が売れた理由から在庫状況、生産計画へとつなげられる。売り上げ傾向から生産までの一連の流れを可視化できるソリューションを、年内にも商品化する予定だ。


一期一会

 1964年生まれの丹下社長はソフト販売のアシストに入社し、DB関連事業に携わった。ある時、日本オラクルの立ち上げが決まり、後に社長になる佐野力氏らから「やってみないか」と声をかけられたという。それをきっかけに日本オラクルに転職した丹下社長は、営業戦略室、執行役員などを務めた。2007年に日本オラクルを退社し、2008年3月にアグラを設立したのは、原価の見える化、マーケティングの強化などを「データをつなぐ」で実現することにあった。

 丹下社長は「ERPなどを活用するより、簡単にデータをつなげるAGRAは、情報基盤になる」と確信する。「データは経営資源になるが、今は眠っている。そのためには原油を精錬して、石油にするようにデータを整理することだ」。無尽蔵なデータは21世紀の石油と同じような価値があると、アグラはデータをつなぐ技術開発にまい進していくという。

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