“脱”LANを目指せ――働き方から変えた企業の挑戦クラウドを駆使(2/2 ページ)

» 2014年03月04日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
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クラウド的セキュリティ対策

 もともとHDEは、オンプレミス向けのセキュリティ対策製品が主力ビジネスだった。脱LAN化を目指す以前は、むしろクラウドのセキュリティリスクに不安を感じ、その活用には消極的であったという。その考えは震災を契機に変わり、自社での取り組みを通じて、ビジネス面でもクラウドセキュリティに舵を切る。

 「社内LANベースではシステムごとにIDが異なるケースが多かったものの、クラウドベースになると認証連携が重要になり、ID自体もクラウドベースになっていく。OpenIDやSAMLなどを使って認証連携できる企業向けのWebサービスが普及し、当社としても以前より積極的に新しいサービスを利用するようになった」(天野氏)

 クラウド中心の業務スタイルでは数多くのWebサービスを使うようになる。サービスごとに異なるIDやパスワードを利用していては管理が煩雑になり、“使い回し”による不正ログインなどのセキュリティリスクも高まるため、認証連携の仕組みで管理性や利便性の低下を回避する。同時に社員ごとにアクセスできるサービスやデータは異なるので、アクセスコントロールも必須になる。同社は、自社の取り組みでこうした点をカバーできるソリューションが見つからなかったことから、「HDE One」というサービスを自社開発した。

 「社外のクラウドを専有するようなスタイルでも基本的にはVPNで接続するので、働き方を大きく変えるものにはならない。当社の目指す働き方を進めていく中で直面するセキュリティの課題は、これからこの方向に行く企業も直面すると考え、運用で解決できないものは自分たちでソリューションを開発していく」(小椋氏)

 なお小椋氏によれば、当社がクラウド中心のスタイルに移行していく中で、どのようなデータをクラウドに展開し、オンプレミスに残すのかといった議論はあった。「HDE Oneのユーザー企業に話を聞くと、当社よりもその判断をしっかりされているところばかりで、逆に参考にさせていただいた」(小椋氏)という。

 当初は抵抗感を抱いていたという管理部の上杉氏も、「セキュリティは当社のビジネスそのものであり、しっかりとした対策を講じている。そのため、今ではデータによってクラウドに展開できる、できないという点はあまり心配していない」と話す。

BYOD導入の意外な理由

 “脱”LANによる働き方の変革の一環で、同社はBYOD(個人端末の業務利用)も導入している。しかし、そのきっかけは意外だ。

 「ギークな社員が多く、たくさんのスマートフォンを持ち歩いて休憩時間にSNSを利用しているが、通信費を節約するために皆が自前のモバイルWi-Fiルータを使い、オフィスの無線LANと混雑するようになってしまった」(小椋氏)

 そこで小椋氏は、社員の私物端末を接続できるようにするため、公衆Wi-Fiを新たに導入し、それに合わせてBYODも許可することにしたという。BYOD端末から公衆Wi-Fi経由でアクセスできるのは、一部の業務システムに限定している。また、来客向けにはFacebook Wi-Fiを導入。Facebookアカウントがあり、同社のFacebookページに「いいね」をチェックした来客は無料でWi-Fiを利用できる。

Facebook Wi-Fiを導入している玄関やゲストスペース

 社員の多くは、公衆Wi-Fiにアクセスして自身の端末で業務をしており、セキュリティレベルの高いシステムには会社支給の端末からオフィスの無線LANでアクセスするという“二刀流”だ。これは脱LANに向けた移行期限定の対応だが、「ほとんどの業務がBYODで済み、どうしても必要な時だけは会社の端末を使う。会社の端末はCPUがIntel Core i3だが、個人の端末はCore i7にしているので、仕事のスピードは速くなった」(天野氏)という。

 BYODや在宅勤務、モバイルワークといった新しい働き方では勤務時間などの労務管理が難しいという課題もある。この点で同社は試行錯誤を続けている段階だという。まずは管理職を対象に、どのような働き方ができるのか、どのような評価や報酬制度にしていくかいうところを検討しているところだ。

 脱LANの実現は、開発部門を中心にもう一歩のところにまで来ている。現在、最後のボトルネックになっているのは、同社の管理部門の業務要件に合致するWebサービスが見つからないことだという。「クラウドに対応したERPや人事系などのサービスが登場しているものの、まだ過渡期にあると感じている。その課題が解決されれば、管理部門の働き方も大きく変わるだろう」(上杉氏)


 HDEにおける脱LANへの取り組みは、震災による事業継続を契機としているが、社員の働き方や事業内容までも大きく変えるものになった。ここまでの直接的な投資規模は、Google Appsなどのライセンスや公衆Wi-Fi用に“ちょっといいモデル”のルータを購入したくらいだという。

 「2011年当時は、ほかに事例が無く、ソリューションも少なかった。しかし、現在では多様な働き方の実現やコスト削減、コミュニケーションの活性化など経営者の観点でも得られるメリットは多く、事例もソリューションもたくさんある。今からなら取り組みやすいのではないか」と小椋氏は話す。

ドクターペッパー好きは優秀な技術者という小椋社長。福利厚生(?)の一環で無料で飲める
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