大規模なクラウドデータセンターの開設を間近に控える沖縄。首都圏とアジアを結ぶ国際海底ケーブルの陸揚げにも注力する。これまでのような単なるバックアップ拠点からの脱却を図る沖縄IT産業の今を、県のIT産業政策トップが語る。
東京から南西約1600kmの距離にある沖縄は、その立地の特性を生かし、首都圏をはじめとする国内企業のシステムやデータなどのバックアップ拠点として、従来からデータセンター関連ビジネスが活発だ。
その背景には、広域災害を想定した場合、沖縄は主要都市と同時に被災する可能性が低いことが主な要因としてあるからだ。また、沖縄には原子力発電所がないため、原発停止による電力不足の問題が回避できるという点も評価されている。このように、バックアップ対策としての活用が中心だった沖縄のデータセンターだが、まさに今、大きく風向きが変わろうとしている。
数年前から沖縄県が主導で建設を進めてきた「沖縄クラウドデータセンター(仮称)」が、いよいよ2015年1月に共同利用を開始する。新設にあたり、データセンターの共通基盤システムなどを整備するための「沖縄型クラウド基盤構築事業」として、約47億6000万円(うち約38億1000万円が沖縄振興特別推進交付金)もの事業費を投じるなど、データセンター事業に対して沖縄県は強い意欲で臨んでいる。
それはなぜか。この沖縄クラウドデータセンターを中心に、公設データセンターの「宜野座村IDC」(国頭郡宜野座村)や、ファーストライディングテクノロジー(FRT)が運営するデータセンター(浦添市)など、県内の主要データセンターを仮想的に1つのクラウドとして利用できるようにする“オール沖縄のクラウド化”という構想を掲げているからだ。これにより、ユーザーは巨大なコンピュータリソースを効率的に活用できるようになり、これまでのようなバックアップ対策だけにとどまらない、高付加価値なサービスを享受できるようになるという。
沖縄クラウドデータセンターは、うるま市兼箇段の農業試験場園芸支場跡地に開設。敷地面積は約1万3000平方メートルで、データセンター棟(RC造2階建、延床面積:約3736平方メートル)、企業などが入居するビジネス棟(RC造2階建、延床面積:約2767平方メートル)、エネルギー棟(S造1階建、延床面積:約775平方メートル)から成る。
クラウド基盤システムの構築は、県内IT最大手のオーシーシー(OCC)、リウコム、おきぎんエス・ピー・オーの3社が2012年7月に設立した沖縄データセンターが「クラウド拠点形成等促進事業」として受託。県からの約4億5000万円の補助金を基に、沖縄クラウドデータセンターに実装する共通プラットフォームの開発を進める。
ビジネス棟に入居する企業として、沖縄オープンラボラトリが既に検討を進めている。同社は、NTTコミュニケーションズ、NEC、イイガの3社が昨年5月に設立した、クラウドコンピューティング技術およびSDN(Software Defined Networking)の実用化に向けた研究機関。現在は、うるま市にある沖縄IT産業の集積拠点「沖縄IT津梁パーク」にオフィスを構えるが、沖縄クラウドデータセンター完成後には移転し、充実したIT設備を活用してさらに質の高い研究に励んでいく姿勢を見せる。沖縄県 商工労働部 部長の小嶺淳氏は「単なるバックアップセンターとしての取り組みだけではなく、付加価値の高いサービスも入居する企業には提供してもらいたい」と期待を込める。
沖縄クラウドデータセンターの開設に加え、クラウド事業を沖縄IT産業の確固たる軸としていくために、沖縄県が今後最も注力するのが国際海底ケーブルの整備だ。現在、東京と香港、シンガポールをつなぐ大容量の海底ケーブルが沖縄本島から約200キロメートル沖合を通っている。それを沖縄に陸揚げし、首都圏と沖縄、アジア地域を1本の通信回線で結ぶことで、通信インフラサービスの大幅な向上を図る。
「アジア情報通信ハブ形成促進事業」として、2014年度に10億円、2015年度には60億円の予算を見込んでいる。具体的な用途に関しては、海底ケーブルを保有するキャリアから15年間の使用権を沖縄県が買い取り、ユーザー企業が無償で回線を利用できるようにする。あるいは、ユーザー企業から多少の運営費などを回収することで20年間の使用権を買い取るかを検討している。いずれにせよ、ユーザー企業は今と比べて割安な金額で通信インフラサービスを利用できるようになるのだという。
従来、企業が沖縄で事業展開する上で、通信コストの高さが大きな障壁となっていた。「以前からコールセンターを運営する企業に対して通信費の補助などは行っているが、クラウドデータセンターとなると通信コストが膨大になるのは明らか。その問題を抜本的に改善するために整備する必要がある」と小嶺氏は話す。
また、沖縄からアジア地域への既存の通信回線はぜい弱で、冗長性などにも問題があった。大容量データを送信できる海底ケーブルを沖縄から直接利用できるようになることで、こうしたボトルネックの解消にもつながるのだという。
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