OSSベースのクラウドで成長戦略を描け サイオステクノロジー田中克己の「ニッポンのIT企業」

これまでオープンソース・ソフトウェアの保守サポートを提供してきたサイオステクノロジーが、クラウドの開発、販売に注力し始めた。その狙いは?

» 2014年03月25日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 OSS(オープンソース・ソフトウェア)の保守サポートなどを手掛けるサイオステクノロジーが、OSSをベースにするSaaSの開発、販売に力を入れ始めた。保守サポートだけでは今後の大きな成長を見込めないとし、自社開発に加えて、M&A(買収・合併)を推進する考えだ。

OSSビジネスの難しさ

 1997年に創業したサイオステクノロジーがこのほど、2016年度(12月期)に売上高100億円、EBITDA(営業利益+減価償却費+のれん償却額)10億円とする中期経営計画を作成した。2013年度に比べて、売り上げを50%伸ばし、EBITDAを3.1倍になる意欲的な目標値である(図表参照)。

サイオステクノロジーの業績予想(2014年度以降は計画) サイオステクノロジーの業績予想(2014年度以降は計画)

 同社の主力事業は、Linuxなど80種類以上のOSSをサポートしたり、導入支援をしたりすること。2004年に東証マザーズに上場するなど、業績は着実に拡大している。大手ITベンダーや大手ソフト開発会社がLinuxを扱い始めたことで、売り上げが伸び悩んだ時期もあったが、「断トツの技術力で、ユーザーの後ろ盾となる」(喜多伸夫社長)という立ち位置を鮮明にし、保守サポートの案件獲得を増やしたという。レッドハットのLinux再販も伸び、事業は軌道に乗り、2010年度から年平均10%超の成長を遂げている。

 だが、2016年度の目標を達成するには、それを上回る年率15%成長が必要になる。その基本的な策は、既存のOSS関連ビジネスを着実に伸ばすこと。「コア事業をさらにブラッシュアップし、クラウド対応も図る」(喜多社長)。そのため、営業や技術、マーケティングを強化する。例えば、サーバを二重化するクラスタソフト「Lifekeeper」は、外資系ITベンダーとの協業などでシェアを上げる作戦を展開する。

 もう1つが、新しい領域のSaaSPaaSを開発すること。「もう一段の発射ロケットを用意する」(喜多社長)ためで、創業から17年間、OSSに取り組んできた実績を生かしたクラウドサービスを開発、提供していく。M&Aも視野に入れる。

 SaaSPaaSを開発する背景には、「OSSビジネスの難しさを感じてきた」(喜多社長)こともある。同社の2013年度の営業利益率は4%弱である。ソフトプロダクトを手掛けるソフト会社に比べて利益率が低いのは、主力の保守サポート事業の基本は人に依存するからだろう。つまり、売り上げを増やすには、人を増やす必要があるということ。Linux製品の販売も、競争激化で利益率を下げていることもある。

 確かに喜多社長が指摘するように、オラクルやマイクロソフトなどミドルウェアやパッケージソフトを開発、販売するソフト会社は、売り上げを数千億円から数兆円へと飛躍させている。対して、OSSを手掛けるソフト会社の中で大きく成長したのは、レッドハットくらいだ。メインの収益源は保守サポートで、ライセンス収入がないからだろう。だが、そのライセンスビジネスは大きな転換期にもある。

 一方、OSSや自社開発したソフトを利用して、新しいビジネスを展開するIT企業が急成長を遂げている。グーグルやフェイスブックなどがその代表だ。喜多社長は「それが正しい姿と思ってきた」とし、クラウドサービスへの注力を決断したという。

米国市場を開拓

 その1つが回覧、認証、稟議といったSaaS型の社内ワークフローだ。これは子会社のグルージェントが開発したGoogle Appsのオプションサービスである。現在は、2013年2月に業務提携したソフトバンクテレコムが販売し、ユーザー数を順調に伸ばしているという。

 もう1つは、PaaS型のモバイルアプリケーション用プラットフォームである。2013年11月に米国・シリコンバレーに設立したGlabioが、2014年夏のサービス提供に向けて開発を進めている。アマゾンウェブサービスなどのIaaSを利用し、モバイル向けアプリケーションを開発する米IT企業などに採用を働きかけていく計画。「こうした特殊分野向けPaaSを開発する」(喜多社長)。

 これらクラウドサービスは、基本的にOSSを駆使して開発する。「最先端のライバルと戦うには、米国に法人を設立したほうがいい。人材も確保しやすい」と喜多社長は考えて、シリコンバレーに開発拠点を設置したという。サービスの品ぞろえと顧客を増やすためには、米国市場への進出が欠かせないということだろう。

 サイオスはこうした事業構造を転換するために、2014年度を新たな成長戦略の起点の年と位置付けて、研究開発費を2014年度に倍増する。積極的に人材投資を実施したり、戦略的な提携を含めたM&Aを推進したりもする計画だ。なので、2014年度は、売り上げは8.7%増を見込むものの、営業利益が1億円と、6割減を予想している。


一期一会

 「20年に1度のIT産業の劇的な構造変化が始まる」。54歳になった喜多社長は、インターネットの普及やフリーソフトが登場した創業前を思い出し、クラウド時代の到来をチャンスと見る。1990年代、ある中堅商社の米国法人に勤務していたおり、LinuxなどOSSを開発、活用するベンチャーが次々に生まれて、産業構造を変えたことを目の当たりにしてきたからだろう。

 喜多社長はそんなことに誘発されて、1997年に友人とノーザンライツコンピュータを設立し、Linuxベースのシステム開発などに取り組む。2002年に同業のテンアートニと合併。2004年に上場した際に、「世界で使える社名」「覚えやすい社名」にと考えて、テンアートニから英語4文字のSIOS(サイオス)に変えた。そして新たに他社が手掛けていないSaaSPaaSの開発に挑む。コア事業を強化する一方、モバイルやビックデータなど新しい事業機会から将来のビジネスチャンスをつかもうとしているのだ。

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