“サービス停止=損失”の状況下でもクラウド移行をした理由削減効果は2300万円!〜ベルメゾンクラウド移行事例(2/2 ページ)

» 2014年07月31日 14時30分 公開
[大津心,ITmedia]
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やってみなければ分からない部分も。増税直前は想定外のトラフィックが!

 経営陣の決済を得、いよいよクラウドへの移行を開始した同社だが、やはりビジネスを支えるECサイトなので、サービス停止等がないように慎重を期し、約1年間かけてオンプレミスから移行していった。

 「移行はオンプレ側とクラウド側で同じ環境を作り、テストを経た後、特定のタイミングで移行するのですが、やはり移すタイミングなど、社内調整に時間がかかりました。実際の移行もやってみたところ、『一部のOSライセンスが仮想環境へ持っていけない』や『クラスター構成ができない』『CPUの稼働率が想定していた数値と異なり、サイジングにチューニングが必要になった』など、想定外の問題が続出しましたね。ただし、大きな問題は特に起きなかったですね」(溝口氏)

 結果的に移行後は、約280台のゲストOSに集約。500台あったサーバーのほとんどをクラウドへ移行した。現在Webサーバーは十数台構成で、ロードバランサーが割り振っているが、常時利用しているのはそのうちの5〜6割の能力で、余裕もあるという。また、サーバーはIBM側でミラーリングされているため、バックアップ機の準備も不要。Webサーバーに余裕があるので、万が一数台が同時に落ちてもサービスにはまったく影響はない。

 運用面でも、大きな効果が出ている。「基本的に運用はアウトソースしているものの、オンプレミスの時代はアクセスのピークがいつどのくらいくるか、キャパオーバーしそうな時には増設などの判断をしないといけないため、精神的な緊張感も常にありました」(溝口氏)。

両氏写真 説明する溝口氏と中島氏

 一方、現在では4倍バーストまで使用できるほか、フレキシブルにスケールアップできるため、「マシンリソース的にも余裕があるほか、ピークに近づくとアラートが上がってきます。その時初めて判断すれば良いので、以前よりも気が楽ですね」(同氏)。このスケールアップ機能によって、ロードバランサーによる制限は、ほとんどしないで済んでいるという。

 ただし、今までに一度だけこの4倍バーストもスケールアップの能力も大きく上回ってしまった日があった。消費税増税前日の3月31日だ。「3月31日の22時ころからの2時間のトラフィックは過去最大の想像を絶するトラフィック量でしたね。仮想サーバーを構成するハードウェアの能力をゆうに超えてしまったため、ロードバランサーで入り口を絞るしかなかったです。お客さまが、我々が思っていた以上に“増税直前まで迷って買わなかった”のが想定外でした。それ以外では基本的に機会損失していないと思っています」(中島氏)。

役割に応じたマルチクラウド環境を構築していきたい

 このように、約500台のオンプレミス環境をクラウド環境へ移行していった同社。特殊用途なものを除いて、ほとんどのサーバーをクラウドのMCCSへ移行した。また、最近では、一部のシステムを「AWS」へ移行。インターネットに公開しない社内向けシステムでお試し中だという。

 溝口氏は「まず、サービスに移せるものは積極的に移す“断捨離”を実施中です。すでにクレジットカード与信(オーソリゼーション)やセキュリティはサービスに移行済みです。OutlookもGoogle App Engineへ移行しました。このように、サービスに移せるものは積極的に移していきます。その判断基準として、社内でシステムの重要度などに応じて2〜3段階の基準を作成しています。この基準に沿って、重要度の低いシステムなどはより安いクラウドへ移行することも検討中です。システムの中身に応じて、より適したクラウド環境を使っていきたいです。とは言え、IaaSレベルでは各社あまり差がないので、5社も6社も組み合わせて利用するのも複雑化するだけで現実的ではないと思います。しかし、今後は今よりも付加価値が高く、当社にフィットするPaaSなどが出てきたら積極的に利用を検討したいです」と背景を説明した。

 また、中島氏はシステムの運用方針について、「やはり当社のようなECサイト運営では、セキュリティの確保とサービスレベル維持が最重要です。ECサイトで情報漏えいは致命的だと考えているので特に注力しています。他方で、オンプレミス環境のセキュリティレベルをユーザー企業が自社で維持し続けるのは、リソース的にもなかなか難しいと思います。今回のような、セキュリティやサービスレベルをベンダーが担保するクラウド環境は、オンプレミス環境よりも、よっぽどセキュリティレベルが高いサービスを維持できると当社では考えました。コスト削減効果や運用の簡素化を含めて、今回のクラウド移行は正解だったと自信を持って言えますね」と笑顔で語った。

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