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» 2014年08月22日 08時00分 公開

萩原栄幸の情報セキュリティ相談室:情報セキュリティを軽々しくネタにするマスコミにモノ申す (2/2)

[萩原栄幸,ITmedia]
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取材に来るなら勉強してよ……

 そして、今でも筆者の下にはさまざまな新聞社、雑誌社、テレビ局からの問い合わせが数多く寄せられる。情報セキュリティの啓発のためにと、時間をかけ、交通費を掛けて1件1件丁寧に対応している。1〜2時間での取材でも謝礼を貰ったことはない。記事などにして頂ける可能性も2、3割という感じである。

 最も憤慨するのは、セキュリティについて基本的な勉強を全くしないで、取材に来るケースだ。まるで「クレクレ厨」か、新人と思われる筆者の子どもたちよりも若い人が、「うちのような大手マスコミがあなたに話を聞いてやっているんだ。何でも教えろ」という高飛車な人が極めて多い。しかも、その後の連絡もない。記事にしてもしなくてもだ。

 「インターネットとWi-Fiって何が違うんですか」「サイバー攻撃で人は死にますか?」「COBOLって言語なんですか! びっくり!」「そういえば私も自宅PCでウイルス対策ソフトは入れていませんよ〜。高いし、そのまま普通に使えるじゃないですか! ネットバンキングしたけどOKでした。運が悪いと詐欺にあう程度ならもったいないですよね」――百歩譲って会話としては許されるかもしれないが、社会人としての常識くらいは身に付けていただきたいものだが、あまりの無知に言葉もない。取材に来た人はこういう発言を平気でされる。あまりにも残念で仕方がなく、筆者も我慢して対応している……。

 昨年、「記事にします」というマスコミに対して前述の経緯を説明し、ニュアンスはいいから論理的に整合性が取れているか、筆者の主張と真逆ではないかなど内容を確認したいとお伝えしたことがあった。すると、「うちは記者憲章を厳守していますので、事前に記事をお見せできません。三重にチェックしますので大丈夫です!」と言われた。

 しかし専門家の間でも意見の分かれる分野であっただけに、「御社の中に専門家がいるとは思えない」と懸念をお伝えしたが、その入社2年目の若手記者は頑なに拒否された。実は数年前に同じ会社の中年記者が取材に来られたが、その記者は筆者のコメントのところだけをメールで送ってくれ、筆者も問題がないことを確認している。そういう経緯のある会社からの取材依頼だったが、その若手記者は事前に論理的チェックをしないことが「世界標準」と言う。結局、「記事にしないでくれ」と依頼するしかなかったのが残念でならない。

 これこそ一人よがりであるのだが、当人は気が付いていない。彼の視点の一部には正しいところもあるが、技術的な内容はとても一般の記者に検証できるようなものではなかった。だからこそ、誤った内容が伝わらないように、最低限のところだけでも検証すべきなのではないかと思う。しかし、記事内容で何かあれば発言者が全責任を負うことになり、そのことにマスコミは一切ケアしない。記者は勝手に解釈して記事を書く。いったいどうなっているのか。

 一度でいいからぜひ取材を受ける立場の専門家の視点で考えてほしいのだ。もし信用問題になっても、大手マスコミはせいぜい「お詫び」を掲載するだけだろう。それですら「社内では禁じ手になっている」と定年に近いマスコミ関係者からお聞きしたこともある。取材相手に対してどこまで考慮しているのだろうか。

 最近も大規模な情報漏えい事件に関して筆者はテレビに2回出演した。その際も上述の懸念を伝えて、「ここが肝心な要点ですのでここだけは一字一句そのまま載せてください」と何回も念を押している。大手新聞社からの依頼にも時間が許す限り対応し、必ず「採用の有無と採用される場合は、私の内容に関して専門的な視点で持論と合致しているかだけでもチェックさせてください」とお伝えしている。

 しかし、この1カ月間で異なる大手マスコミの記者3人と面談したが、面談後に3人から一切メールも電話も無く、とても“まともな社会人”の対応とは思えない。

 どの分野でもこうしたことが起きているのかもしれない。情報セキュリティ分野は実に奥が深く、幅も広い。しかも年々大きく変化している。難しいことを平易に解説するというのが専門家の役割の1つだが、そんなに甘くはない。報道する内容が専門的であればあるほど、きちんとした検証が必要になる。それを順守すれば、報道内容の品質も向上するはずだ。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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