日本人の生真面目さが企業をダメにするなぜ日本はガラパゴスITなのか(2/2 ページ)

» 2014年09月24日 10時00分 公開
[廣瀬治郎,ITmedia]
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ITを守るのではなく、ITで攻めることが重要

── どうすれば日本企業のITは変わるのでしょうか

西村毅氏

西村氏 日本企業のITがガラパゴス化してしまう土壌は根深いものがありますが、CIOや情報システム部門長の方々が、勇気を持って活発に取り組めば、何とかなります。

 そのクラスの方が、「自分は専門知識も無いし、このポストも短期間だからとリスクを犯すのはやめよう。今のシステムが安定稼働するようにきちんと運用すれば良い」と考えて、守りに入ってしまうようでは、新しいものが入ってくる余地はありません。

 “IT改革をしなくてもよい言い訳”は、いくらでもあります。「現状のシステムを安定稼働させなければならない」や「IT運用のコストカット・コストダウンをする必要がある」などと言っておけば、リスクある革新を避けられるのです。

 実際には、「ITをコストカット(Costcut of IT)」するのではなく、「ITを用いてコストカット(Costcut by IT)」を目指すべきなのです。“ofとbyの違い”は、とても大きいのです。

 そして、コストカットよりも重要なことは、ITを活用していかに競争力を高めるか、いかに売り上げを増大させるか、いかに利益を出すか、新しいビジネスモデルを打ち出すか、そうした革新なのです。

 見識があって優秀なCIOであれば、ITの立場から経営革新を提案することができるでしょう。そして経営陣に重要性をきちんと理解してもらい、現場を巻き込み一丸となって改革を進めるでしょう。しかし現実にはこれまで述べてきた日本固有の「環境」「文化」「気質」による様々な障害が立ちはだかり、苦労することが多いのです。

 日本企業のITの多くは、すでに「ゆでガエル状態」になっています。状況が悪化しているにもかかわらず、変化がゆるやかなため、飛び出すタイミングを逸しているのです。このままではゆで上がって死んでしまいます。それをはっきりと自覚して、鍋から飛び出せるかどうかが生き残るためには重要なのです。

CIOは仲間作りから始めるべき

── CIOは、改革を進めるため、組織の中でどのように戦っていけばよいのでしょうか

西村氏 まず「覚悟」を決めてください。覚悟が最も重要です。勇気を持って改革を進めること、それを強く意識してください。とは言え、読者の皆さんはすでに覚悟していることでしょう。

 CIOが改革を始めるときに、まず行わなければならないことは、仲間作りです。CIOが一人で奮闘したところで、改革を実現するには荷が重すぎます。この仲間作りができなければ、プロジェクトは失敗し、数年間はお蔵入りということにもなりかねません。そのため、覚悟を決めて改革を始められるCIOには、かならずこの仲間作りをお勧めしています。

 まず初めに仲間にしたい人物は、やはり経営者です。CIOの戦略にコミットし、決断を支持してくれるかどうかは非常に重要です。次が、情報システム部門のスタッフです。自身の戦略に呼応し、付いてきてくれるかどうかで、スムーズに改革を進められるかどうかが決まります。そして3つ目、実は最も重要なのですが、実際にシステムを利用するエンドユーザー部門です。

 たいていの場合、ユーザ部門からは、ITの改革に反対する社員が大勢出てきます。しかし、本心では共感してくれているケースが少なくありません。実は、その人の上司が懐疑的であったり慎重派であったりしているため、同じように反対しているのです。そこで私は、反対している人の上司を説得することを勧めています。その上司が了解してくれれば、反対意見は収まります。

 欧米のようなトップダウン型の組織であれば、経営者を説得すれば改革を進められますが、日本のようなボトムアップ型の組織を動かすのは、「場の空気」なのです。そこで私は、あの手この手を使って、組織全体でIT改革を進めなければならないのだという“空気”を作ります。仲間作りをきちんと丁寧に行って、IT改革の空気を醸成することができれば、あとは難しくないのです。

 こうした仲間作りから始めてIT改革に成功されたお客さまの中には、一部上場の製造業のCIOや、地方自治体の情報システム部門長の方もおられます。

外部から積極的に知見を取り入れる

── IT改革を成功に導く最大のポイントを教えて下さい

西村氏 IT改革のプロジェクトが成功できるかどうかは、「責任者が似たようなプロジェクトをどれほど経験しているかどうか」や「ベストプラクティスをどれほど知っているか」にかかっています。

 また冒頭で述べた「真面目すぎる」という点については、「そこそこ感」が重要だと考えています。要件定義にしても、実は徹底してやってしまった方が合意形成などは楽なのですが、それでは失敗してしまいます。そこで、ある程度のところで止めておき、設計・開発時にアジャイル的な手法でブラッシュアップさせていく感覚が重要です。この「そこそこ感」を身に付けるのは非常に難しく、難しい局面も含めて多数の経験を積んでいる必要があります。

 しかし、CIOの立場で、そのようなプロジェクトや多くの局面を経験している方は多くはありません。

 まずは、外から知見を取り入れることを実践してください。ベンダー各社の意見を聞き、Webサイトやセミナーで情報を収集します。時には経験豊富なエンジニアを中途採用することも必要です。自分たちだけで考え過ぎず、真面目さをゆるめて「そこそこ感」で実践していくことが重要です。

 幸いなことに、私たちのようなコンサルタントを生業としている者は、大きなプロジェクトを幾つか経験しています。そのため、1年目、2年目、3年目と、何が起こるか、概ね予想することができ、あらかじめ対策を練ることが可能です。残念ながら、そのようなCIOを助けることができる人材が、日本には少ないように感じます。

 多くのCIOは、判断を間違えても正してくれる人がいない環境で、難しい意思決定を迫られます。ある意味、孤独な存在です。しかし、日本企業が国際競争力を付けて勝ち抜くためには、覚悟を決めてがんばらなければなりません。私は、そうしたCIOを強く支援していきたいと考えています。

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