スマホのスタンプラリーで若い顧客を取り込め――東急百貨店の挑戦

東京・渋谷駅近辺に3店舗を構える東急百貨店。バレンタインシーズンを目前に、スマホを使った店舗間の回遊施策を実施する。同社のオムニチャネル戦略を聞いた。

» 2015年02月06日 15時00分 公開
[岡田大助,ITmedia]

 駅ビル内や併設のショッピングセンターを行き交う人を見ていると、最近ではスマホ片手に買い物する人も増えたように思う。話題の商品を検索したり、お目当ての店舗を探したりという人もいれば、店舗で商品の実物を見て注文はスマホから値段の安いECショップで買う――いわゆるショールーミングと呼ばれる買い方をする人もいる。

 一見、ショールーミングは実店舗にとってピンチのように思えるが、実は商機だととらえることもできる。店舗もECもそれぞれが顧客との接点となる販売チャネルと考え、連携させる「オムニチャネル」戦略だ。オムニ(Omni)とは「すべて」「あまねく」を意味する。

 ところで、2月といえば小売店にとってはバレンタイン商戦期。各社ともさまざまな施策を考え、顧客の囲い込みに躍起となっている。渋谷駅周辺に、本店、東横店、渋谷ヒカリエ ShinQsの3店舗を構える東急百貨店も2月5日から8日までスマホを使ったスタンプラリーを実施している。同社の戦略について担当者に聞いた。

スマホに物理的なスタンプという目新しさで新規開拓に成功

スタンプラリー スタンプラリーのイメージ

 専用アプリを入れたユーザーのスマホに、物理的な道具を使って電子スタンプを押すというこの企画、同社としては2回目の取り組みとなる。まずは、2014年11月に実施した「SHIBUYA イタリアフェスタ」での手ごたえを同社デジタルマーケティング担当の須崎直哉氏に振り返ってもらった。

 イタリアフェスタでは、6日間の期間中に3店舗を回り、スタンプを集めたユーザーに対して、3店舗の食料品フロアで使える200円のクーポンを配った。一般的に、百貨店の利用者の8〜9割は女性だが、スマホに物理的に電子スタンプを押すという新規性もありスタンプラリーの参加者は男性が3割程度まで伸びた。

 「初めての試みでしたので、目標は『ユーザーに不便やストレスを感じさせることなく終わらせること』。6日間で大きなトラブルもなく、まずまずの結果でした。イタリアフェスタで得られた知見を基に、バレンタイン企画では現場の習熟度を高めることに主眼を置いています」

 例えば、実際にスタンプラリーを実施してみると、紙ベースのスタンプラリーと同じようにスマホを机の上に置いてスタンプを押す人が多かった。ところがアプリの機能上、スマホを手に持ってスタンプを押すほうが認識率が高まることが分かった。バレンタイン企画ではスマホを手に持ったままスタンプを押してもらうように周知徹底し、満足度の改善を狙う。

クーポンの利用率を上げるために必要なこと

 東急百貨店が顧客のスマホを積極的に利用し始めたのは2013年春から。スマホによる電子クーポンの利用率(コンバージョン率)は約20%に達することもあり、従来の紙やDMを使った施策(同5%程度)よりも高い集客効果を実感している。

 ポイントは、機能自体の面白さや目新しさだ。エンターテインメント性を持たせることで「試してみたい」という気持ちを喚起する。今回のスタンプラリーでは、東横のれん街のイメージキャラクター「東横ハチ公」のバレンタイン版デザインをキャッチに使う。2014年4月に生まれた東横ハチ公の認知度は、お散歩と称する着ぐるみイベントやSNSでの拡散によりじわじわと上昇し、最初はピンときていなかった社員も、いまではファンになっているそうだ。

スタンプラリースタンプラリー 男性用には背景が水色の画面を用意する

 また、あまたあるスマホアプリの中から無料とはいえ「東急百貨店」アプリを選んでインストールするユーザーは、もともとロイヤリティが高いのではとも予想している。客層も20〜40代で、一般的に百貨店の中心顧客といわれている層よりも20〜30歳くらい若い。新規顧客獲得への貢献度は高いといわざるを得ない。

 ところが、売り場のスタッフの中にはITやスマホに対して苦手意識を持つ人もいる。実は、イタリアフェスタも今回の企画もスタンプラリー自体は売り場の外で実施した。

 「現場からは『できれば無人でやりたい』という声も上がりました。でも、95%のお客さんがスムーズにできたとしても、1人でも苦労する人が残されてしまうのであれば無人化には踏み切れません。どんな場面であっても満足度の高いものを提供する必要があります。また、売り場の苦手意識や先入観は、小さな施策を数多く打ち『お客さんはとても喜んでくれる』『思っていたよりも簡単かも』という実感を重ねることで払しょくできると思います」

スタンプラリーは「試食」のようなもの

須崎直哉氏 東急百貨店 MD企画部 デジタルメディア部 デジタルマーケティング担当の須崎直哉氏

 今後の課題は、電子クーポン、電子DM、新着情報の発信などを一連のサービスとして提供するだけでなく、そこから得られた顧客属性などのデータをどのように活用すべきかというもの。このPDCAサイクルをぐるぐる回すことがオムニチャネル戦略の本丸だという。

 「お客さんにも売り場にももっとITを浸透させるには、とにかく店舗に足を運んでもらって使ってもらうことが重要です。試食サービスと同じですよね。百貨店には知る人ぞ知るような老舗のお惣菜や期間限定のスイーツなどがありますが、若い層には認知度が低い。でも、一度でも食べてもらえれば販売への貢献度は大きい」

 たしかに物産展などは試食だけでお腹いっぱいになることもあるが、これは百貨店がもともと持っている楽しみ方の1つだった。同じように販売員がデジタルを使いこなして、百貨店らしい新しい楽しみ方を提案できるようになる日も近いかもしれない。

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