自社製品をアピールするショールームを持つ会社は少なくない。最近では、商品やサービスを自社のオフィスで使っているシーンごとアピールする「ライブオフィス」を導入する企業も増えてきた。
例えば、ヤフーの社員食堂やコロプラの新オフィスなどのインテリア設計を手掛ける三井デザインテックにとっても、オフィス空間そのものだけでなく従業員の働き方まで提案できるライブオフィス化は願ってもないチャンスだった。
「The PALETTE」と名付けたオフィスは、「社員の相互理解」をゴールとし社員一人ひとりにあった働き方を実現できるオフィス空間を模索した。現場スタッフだけでなく、情報システム部門も巻き込んだプロジェクトについて聞いた。
オフィス移転や組織替えなどで、社内レイアウトが変更されることはよくあること。近年では、これを機に働き方改革につなげる動きも増えた。事業を成長させるためにワークスタイルを変えよう――そのために三井デザインテックのスペースデザイン事業部では、「オフィス」という概念を変えることからスタートした。
「以前はオーソドックスな島型レイアウトで、上司と部下の関係も事業部制にひもづく伝統的なもの。縦割り組織にも良いところはありますが、ビジョンの共有に欠ける、スピーディさがない、連携が悪いといったデメリットが大きい。職位によって目的意識が違ってしまい、結果としてお客さんのためになりませんでした」
こう話すのは、The PALETTEを推進した亀田隆氏だ。事前に実施した従業員へのヒアリングで分かったのは、承認プロセスがボトルネックになり、組織が仕事のスピードについていけていないということ。経営判断のスピードアップのためにもワークフローの改革を求められた。
また、部門を超えた協業を求められる仕事も多くなった。そこで、一人ひとりのプロフェッショナルがパッと集まって、アウトプットを出して、サッと戻っていくようなオフィスの実現を目指した。
「The PALETTEになってから3カ月間経ちましたが、働き方が大きく変わったことは実感できます。スピード感も上がりましたし、それまでほとんど話さなかったメンバーとも頻繁に会話をするようになりました」(亀田氏)
コミュニケーションの取りやすさについて聞いた社内アンケートでも、異なる部門の上司に対しては約77%が、異なる部門の同僚に対しては約87%が、異なる部門の部下や後輩に対しては約73%が「以前よりもやりやすくなった」と答えている。
プロジェクトが始まったのは2014年4月。実際にレイアウトの変更作業は9月から始まり11月に終えた。情報システム部門は、ライブオフィス化の推進メンバーとしても参加する。
「それ以前はヘルプデスク業務に徹した、どちらかといえば受動的な仕事の進め方でした。でもこのプロジェクトに参加したことで、新しいシステムの取り組みを主体的に提案するようになりました。ライブオフィス化で情シスも働く意味がかわったのではないでしょうか」(同社広報)
最初のステップとして事業部長以下、ほぼ全スタッフのフリーアドレス化に着手した(CADのオペレーターなど一部固定席のスタッフを除く)。本社全階にWi-Fiを導入し、ほぼすべてのスタッフの貸与端末をノートPCにリプレイス。どこでも働けるワークスタイルの基本とした。
また、スペースデザイン事業部内の会議ではiPadを活用したペーパーレス化に取り組み、電子受発注システムの導入も進めた。ただし、フリーアドレス化してもノートPCの社外への持ち出しは禁止のままだ。これは、同社独自のルールではなく三井ホームグループ全体のセキュリティポリシーによるところが大きいという。
一方で、全社的な取り組みとなる決裁・文書管理システムの導入、オフィス間のICT環境の整備、外部協力会社との環境整備などはアイデアとして出されたが、予算化や調整が難しく今後の課題として継続案件となった。
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