「マイナンバー」とは? 統一番号の試みた歴史萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/2 ページ)

» 2015年04月17日 08時00分 公開
[萩原栄幸ITmedia]
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「グリーンカード」という仕組みでも

 ここでいうグリーンカードとは、米国の外国人永住権ではなく、日本国内における「少額貯蓄等利用者カード」のことだ。多分ほとんどの方がこの名前すらご存じないだろう。

 1984年当時に活発に議論され、筆者は「グリーンカードプロジェクトチーム」に入ることになった。日本国民全体の問題になり、納税者の半分以上がこの番号を持つことが確実だと言われた。国内最高レベルのセキュリティを実現する巨大なデータセンターを早期に建設しなければならず、「どこなら安全だ?」といった議論が繰り返され、システム設計についても先行して青写真が描かれていた。

 ところが当時の郵便局(郵政省)や金融機関、そして自治体までもがこの制度に反対し、結局は翌年の1985年に議員立法で廃案となったのだ。

 この時も「国民全員を通し番号で管理できるようになる」ということに批判意見が出ていた。たしかに一見すれば便利な仕組みであるだけに、様々な立場から反対があるのも分かった。当時の筆者は、システム屋の感覚としては「便利な方がいい」という単純な考えであった。「税務署に財産を全て知られるリスクがあり、到底容認できない」という、(公では発言しにくい)反対派の論理を知ることになったのはそれから数年先である。

住基カード

 現在でも細々と運用されているが、構想された当初は全国民に番号を付けて管理するという方向にあった。市民団体の多くがこれに反対を表明した。「ウシは10ケタ、ヒトは11ケタ」という有名なスローガンが掲げられた。

 2002年のことであり、既に13年の月日が流れている。この頃にはプライバシー侵害や有事法制の問題などにも絡められて実質的に骨抜きの形でその運用が決まった。住基カードを持つ人は現在でも数%台という低さだ。実際には“無いに等しい”ものになった。


 日本ではこういう議論を重ねられてきたのだが、なぜか今回の「マイナンバー」については市民団体や議員グループ、政界、財界による議論の声が少ないように感じられる。次回以降は、諸外国の状況やマイナンバーのシステム導入で苦労する企業の現状について述べてみたい。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

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