財務省案ではほかにも「軽減対象品目の取り扱い」や「還付限度額」「安定財源の確保」などの検討課題が挙げられているが、上記ではとくに個人情報保護や情報セキュリティ対策に言及している部分をピックアップした。上記からすると、個人情報保護や情報セキュリティ対策に関する課題はほぼ挙げられているようにも見て取れるが、最もシンプルな視点が抜け落ちているのではないだろうか。
それは、消費者にとってマイナンバーの個人番号カードを使わないと還付を受けられないことだ。すなわち、高齢者や子どもを含めて大半の国民が、買い物をする際に常に個人番号カードを持ち歩いて何度も出し入れすることになる。そうなると、おそらくカードを紛失するケースが続出するだろう。想像しただけでもリスクは非常に大きい。
このことは、個人情報保護や情報セキュリティ対策もさることながら、消費者にとって手間がかかる点が最大のネックになるかもしれない。スーパーや飲食店などのレジでは現金やクレジットカードのほか、ポイントカードのやりとりもある。さらに個人番号カードを提示するとなれば、大半の消費者が煩わしさを感じるだろう。
小売り業者にとってもさまざまな課題がある。まず、個人番号カードを読み取る端末が必要になるが、1台数万円のコストがかかるとみられている。財務省は、小規模業者にはそうした端末を無償で配るほか、規模によって費用の一部を補助する方向で検討しているというが、システムとして利用できるようにする手間はかかる。さらに、情報管理や運用上の手間が増えることは間違いない。
一方、端末を扱うPOSレジベンダーやシステムベンダーにとっては、大きなビジネスチャンスといえる。財務省案が提示された後、大手POSレジベンダーのトップと話す機会があったので意見を聞いてみたところ、「われわれとしてはどのような制度になっても、新たな端末をすぐに用意できるようにする。そのためにも今後の論議の推移を注意深く見ていきたい」と語っていた。
ベンダーとしては当然の見解だろう。ただ、前述したように個人番号カードを使うフロントエンド処理が危なくて煩わしいのではないかとそのトップに問いかけてみたところ、「政府案に対してコメントする立場にないので……」とやんわりとかわされた。
とはいえ、検討が始まったばかりなので、さらなる知恵を絞りたいところだ。個人番号カードを使うフロントエンド処理について、ITをもっとうまく生かせないものか。例えば、スマートフォンや生体認証を組み合わせて、個人番号カードを持ち歩かなくても個人認証できる仕組みを整備するとか……。
ITを活用した事業モデルの構築は、ITベンダーやコンサルティング会社のお家芸のはずだ。ぜひ、妙案を政府に提案してもらいたい。一方で、政府も個人番号カードに執着せず、マイナンバーについては柔軟に定着させていくことを考えてもらいたい。そして、今回の「消費税のマイナンバー還付」については、よりシンプルなフロントエンド処理の方法が創出されることを期待したい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.