第7回 オブジェクトストレージを解読する “無限”にためる使い方クラウド社会とデータ永久保存時代の歩き方(2/3 ページ)

» 2015年12月16日 07時00分 公開

企業、公共分野での使い方

  • 医療/ライフサイエンス
  • メディア/エンターテイメント
  • 金融
  • 官公庁
  • 資源探査/地形/環境データアーカイブ
  • 教育
  • 監視カメラ

 各領域での使い方をみていきます。

医療/ライフサイエンス

 医療分野では電子カルテやPACSデータ(CT、MRIなどの画像データ)が増加の一途をたどると考えられます。画像の高解像度化はもちろん、今後は日本でも海外諸国のようにメディカルレコードの保存期間が法規制される可能性があることや、遠隔治療、高解像度シミュレーション装置による手術の成功率の向上などが期待されます。4K-3D動画データなどもどんどん増えてくるかもしれません。このようなデータはできるだけ多くを蓄積し、必要に応じて読み出すことができればよいのですから、オブジェクトストレージには非常に向いているといえます。

メディア/エンターテイメント

 日本がHDテレビを優先して開発しているときに、ハリウッドなどの北米のメディア産業は映像のデータファイル化を進めていました。日本のメディア業界のIT化は当初遅れてしまったと感じていますが、気が付けば2014年には日本の映画館の97%がデジタル化され、映写機で映画フィルムを再生できるところはほとんどないのが現状です。今までのフィルム映画のデジタル化は避けては通れない課題ですが、簡単に制作できるようになったボーンデジタルコンテンツ(最初からデジタルで制作された映画)も高解像度化や3D化、広帯域化によりデータ量はますます増加していきます。さらに、今では個人が高解像度のスマートフォンでオリジナルの動画を制作できる時代ですし、想像をはるかに超えるスピードで動画データが増えていくのは想像に難くないですね。オブジェクトストレージは、ランダムアクセスよりも一度アクセスしたら、そこからストリーミング再生する動画の保存、または、簡単にコピーを作成して分散配置できるため、オンデマンドの動画自動配信などにも非常に適した形態だといえます。

金融

 保守的なイメージが強い金融の世界は、「構造化データが中心、そんなに容量も増えない」と思われがちですが、それは大きな誤解です。Gartnerの金融専門のアナリストに聞いたのですが、実は一般的な銀行、金融関連の会社では利益の70%をコンプライアンス、セキュリティなどの規制関連に費やしているとのことです。特に最近問題視されているのがネット経由からの攻撃、そのためアクセスログ、セキュリティログなどの保存は必須で、さらに言えば、保存期間もできるだけ長くしたいというのが本音のようです。実はこのログデータ量は尋常では無い量です。通常利用しているストレージシステムに置いておくことは困難です。ここでも低コストで拡張性の高い、オブジェクトストレージが有効活用できるでしょう。

通信

 通信業者は一見データの通信インフラだけで事業をしていると思われがちですが、当然ながら通信履歴のデータもあり、さらに、ほとんどの通信事業者は独自にサービスを持っています。これまた長期的に保管し、ある程度のアクセス性能も求められます。アクティブアーカイブという表現も使われていますが、アーカイブデータを積極的に分析して、ビジネスや公共サービスの改善に役立てることも可能です。最近のオブジェクトストレージは、かなりアクセススピードも速いものも出てきており、このような分野にも適合するといえます。

官公庁

 年金問題でも露呈したように、この分野のIT化は極めて遅れているといわざるを得ません。抜本的な対策をしようにも予算枠が厳しいのですが、そのまま放置しておくと、ますますコストが膨らんでいきます。さらにこれからは、国民全員の個人データや、社会インフラのデータ等を長期にかつ確実に保管する必要があります。セキュリティも重要ですね。オブジェクトストレージは、大容量、データ信頼性、アクセスコントロール等のセキュリティへの対応も比較的しやすい技術です。

資源探査/地形/環境データアーカイブ

 以前から石油や天然ガスなどの資源探査には莫大な資金が投入されてきました。それらの大量のデータは、その後の分析用に長期保管されます。最近では人工衛星やドローンによる分光分析器での元素の種類やその含有量の測定、衛星画像からの大気の状態など、地球環境シミュレーションに必要なデータを保存するニーズは今後も高まるでしょう。これらのデータは二度と再現しない可能性が高いため、半永久的に保存される必要があります。

教育

 「MOOC」というものをご存じでしょうか。世界的な大規模公開オンライン講座(MOOC:Massive Open Online Course)は北米ではかなり広がってきていて、スタンフォード大学のMOOC担当の方が、同大学とHewlett-Packardで行われた世界最初の遠隔地大学講座の歴史を熱弁されていたのは今でも記憶に残っています。ジョージア工科大学がこの分野では進んでいるとの話や、ある教授はMOOCで単位を出すというメッセージを出して大学側とひともんちゃくがあったりと、まだ黎明期ですが、東京大学でもMOOCを既に始めています。世界中の英知をオンラインで享受できる、すごいことになったなと感心もするのですが、世界中に講義をしている教授は何人くらいいるのでしょうか。このビデオデータもとてつもない勢いで増える可能性を秘めています。

監視カメラ

 監視カメラの数は今後伸びると考えられます。プライバシーの問題もあるのですが、実際に多くの事件解決の手段として有効であることが認められてきているのも事実で、特にオリンピックも控えている東京では今後も増えると推測されます。IPカメラの出現はカメラのIoT化を実現し、今後画像以外のセンサーも搭載されるかもしれません。解像度、ダイナミックレンジ、フレーム数も増えるでしょうか。そして、それが長期に保存される可能性も十分あります。オブジェクトストレージはメタデータの拡張性も特徴の一つです。メタデータとはデータの属性を表すものですが、従来ないカテゴリーのデータも定義することが可能です。例えば画像データのパラメータ以外に、温度や湿度、気圧や匂いといった情報までも柔軟に追加することが可能です。

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