「事業を売却することはない」──マイケル・デル氏に聞くDellとEMCの今後Computer Weekly

DellによるEMCの買収は業界に驚きをもたらした。この買収がDellとEMCの事業に及ぼす影響とは? デル氏に同社の今後をインタビューした。

» 2016年01月06日 10時00分 公開
[Cliff SaranComputer Weekly]
Computer Weekly

 米EMCを買収した米Dellはこれからどうなるのか? 同社CEOのマイケル・デル氏は何を考えているのだろうか?

 EMCを買収することで、同社は同業他社との関係が悪化することになる。それでも、670億ドルもの投資を失敗に終わらせるわけにはいかないと同氏は考えている。

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 オーストリアのウィーンで開催された「EMEA Solutions Conference 2015」への出席を前に、同氏は現状について次のように話した。「当社はクライアント事業において11四半期連続でシェアを伸ばし、サーバ事業でもシェアを獲得している」

 だが、サーバ市場は厳しい状況が続いている。2014年に、米IBMがPCサーバビジネスを中国Lenovoに売却した。2015年11月には、米Hewlett-PackardがHP Inc.とHewlett Packard Enterprise(HPE)に分社した。同時に、大規模IT契約の需要が低下し、契約を複数のサプライヤーで分担するのが一般的になっている。Dellの課題は、こうした傾向の中で、複数のサプライヤーと契約を結ぶよりも1社に絞って購入する方が適切であると納得させることだ。

 「こうした傾向とは異なる方法で物事を進めることに不安はない。当社は規模が重要だと考えている。これからSoftware-Defined Data Center(SDDC)の時代が始まる。EMC買収後の当社は好位置に付けることになる。当社の顧客はSDDC関連の製品をまとめて購入することを望んでいる」とデル氏は語る。

 デル氏によると、コンバージドインフラがデータセンター内にサイロを生み出す境界線を曖昧にしている。それが同社の追い風になると言う。EMCを買収すれば、同社は大企業の最重要ITプロバイダーとなる水準に達し、中小企業向けサプライヤーという立場から脱却することになる。

 デル氏は、ハイブリッドクラウド、モビリティ、セキュリティを通じて、将来的には同社がIT業界のリーダーになり、デジタル化を支えることを望んでいる。デジタル化は、大手IT企業各社が取り組もうとしている最重要分野の1つだ。IBM、HPE、Dellはデジタル化におけるシェアの獲得を目指している。

 センサー、帯域幅、コンピューティングといったリソースのコストが低下し続けていることを考えれば、デジタルテクノロジーを使用するビジネスの見直しが可能になる。こうした見直しを行わない企業はいずれ立ち行かなくなると、同氏は警告する。

 「製造しているものが製品でもサービスでも、情報を駆使して改善していく必要があることを企業は認識している」とデル氏は話す。

EMCが収まるべき場所

 デル氏にとっての大きな問題は、670億ドルを投じて買収するEMCが収まるべき場所だ。

 「PC、ストレージ、サーバを製造する専門企業の誕生に興奮している。当社は全世界の大企業から小企業まで、他に類のないほど幅広い顧客に対応できるようになる」と同氏は話す。

 これまでのEMCの顧客は、同社の大企業向け戦略に懸念を抱くことになるだろう。EMCの特徴は自社製品の提供だが、Dellの特徴は他社製品の再販だ。例えば、SDS(Software-Defined Storage)の場合、EMCは「EMC ScaleIO」を提供しているが、Dellは米VMwareの「EVO:RAIL」を使用している。オブジェクトストレージ製品の場合、EMCは「Atmos」「ViPR」「EMC ECS」を用意しているが、Dellのシステムは米Scalityの製品を採用している。ハイパーコンバージドの場合、EMCは「EMC ScaleIO Node」を提供し、Dellは米Nutanixの製品を再販している。

 Dellに競合製品がある場合、EMCの資産を売り払うのか。デル氏は次のように答えた。「製品のポートフォリオには高い補完関係がある。ストレージには一部重複もあるが、Dellの製品ラインとEMCのストレージ製品ラインは多少異なる。(製品ラインが)7種類から9種類に増えることになるが、それは問題ではない。製品ラインの強化は続けていく予定だ」

 無視できないのがVMwareの存在だ。デル氏は、DellがVMwareを縛り付けるつもりはないことを正式に発表している。

 「当社の信念は選択の自由と開放性だ。VMwareは独立した上場企業としての立場を維持することになる。VMwareのパートナーに不利になるようなことをするつもりはない」と同氏は話す。

 EMCの資産を売却しないというデル氏の意思は固い。だが、英Reutersのレポートによれば、DellはEMC買収資金調達のために抱え込む495億ドルの負債を減らす目的で、100億ドル相当の資産を売却することになる可能性があるという。

 売却の対象になると考えられるのは2009年に39億ドルで買収した、Dellのサービス部門を担当する米Perot Systems、2012年に27億ドルで買収した米Quest Software、2012年に12億ドルで買収したとされる米SonicWALLだ。また、デル氏のコメントには反するが、EMCのSAN製品ラインアップと重複することを考えれば、今後Dellの「EqualLogic」が精査の対象になることは明白だ。

Dellの再始動

 Dellはかつて、世界規模のサプライチェーンを有していた。デル氏はやり方を変えると話しているものの、一体となったDellとEMCが、ソフトウェアに大きな重点を置かずにどこを目指すのかを見定めるのは容易ではない。同社が本当にデジタル化のチャンスをものにしたいと考えているのであれば、その戦略にはソフトウェアというピースが欠けている。

 Dellは、ビジネスインテリジェンスのすき間を埋めるために大掛かりな企業買収を行うだろうか。その可能性は低いと考えられる。Dellの「Toad for Oracle」はデータベース管理ツールだが、Dellは2014年に米StatSoftを買収し、これにビッグデータ分析機能を追加している。それに加えてEMCを買収すれば、Dellはカスタム分析機能を提供する米Pivotalを傘下に収めることになる。だが、デル氏は主要ソフトウェアを獲得する必要性を感じてはいない。

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