第4回 最近耳にする? 「ソフトウェア定義」のインフラってどんなこと?データで戦う企業のためのIT処方箋(2/2 ページ)

» 2016年03月15日 08時00分 公開
[森本雅之ITmedia]
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ユーザー企業の経営層にとっての具体的なメリット

 SDIでITシステムを簡単に、自由に利用できる、という直接的な効果を説明しました。具体的には「システムの拡張や更改が楽になる」といった運用上のメリットになりますが、実はそれ以上に重要なメリットをユーザー企業が得られます。端的にいえば、「ITシステムの新しいライフサイクルが実現できる」ということです。

 これまでのITシステムは、ライフサイクルに照らしながら業務アプリケーションを含めて一斉に入れ替える更改運用が主流でした。ITインフラを構成するサーバやストレージなどのハードウェアは、モノである以上いつかは壊れます。つまりこの運用には、普段は保守サービスを契約して万一壊れてもすぐに修理して使えるようにしていても、いつかは保守が終了してモノが入れ替るという事情が背景にあります。

 とはいえ、システムが大規模化・複雑化している状況では、このようなシステム更改は一時的な費用負担や人的負荷が非常に重く、しかもシステムが停止できる時間は減少していることから短い期間で作業をすることになり、プロジェクトの難易度が高くなります。

 そこで、SDIによってシステムとハードウェアを分離すれば、ハードウェアを適宜必要に応じて入れ替えながら、上位のサービスをソフトウェアによって継続するという、継続的なITインフラによる持続可能な新しいライフサイクルの実現が必要になりました。

 次の図は従来型とSDI型のシステム更改におけるライフサイクルとコスト構造の概要を示しています。

図2:従来型システム更改のライフサイクルとコスト構造
図3:SDI導入後のシステム更改のライフサイクルとコスト構造

 コストの観点でSDI型は、スモールスタートによって一時的な負担の抑制ができます。また、ハードウェア増設などの時期を繰り延べられることにより、初期導入時に比べて同性能でも価格の安いサーバやストレージ機器(または同価格で性能の高い機器)を利用できますので、長期的に必要な全体コストの抑制にもつながるでしょう。

 それに、従来は複数のハードウェア機器が混在すると、担当者が複数の運用方法を習得しなければならず、機能にも差異が出てしまいますので、運用や管理にかかるコストは無視できない状況でした。これをSDIによって共通化し、統合管理するようにしていくことで、複数のベンダー機器や世代の異なる機器が混在しても運用を変えなくて済みます。この変化によって、上述のハードウェア増設などの時期を繰り延べるという方法が現実的に選べるものになりました。

 運用の観点でも、SDI型のシステムなら1回あたりの作業の負担が減ることによって、リソースの限られるIT担当者やSIerのエンジニアでも無理なく対応できるようになります。それに、作業の間隔が短くなることで前回作業時の方法や問題点などの知識を維持しやすくなります。ITシステム全体としての安定性の向上や、プロジェクトにおけるトラブルの低減につながりますし、プロジェクトの短期化や内省化が図られることで人的コストも抑えられると期待できます。

 このようにSDIの活用は、部分的な発生コストの抑制と平準化を実現しつつ、ITシステム全体としてのコスト抑制において大きな効果をもたらすでしょう。

図4:SDI導入前・後でのトータルコスト構造の比較)

 どのような規模の企業でもリスクヘッジを含めた総コストの抑制は、ITシステム部門にとどまらず経営層にとっても大きな課題です。また、システムが大規模になればなるほどSDIによる効果は大きくなりますが、第3回で紹介した通り、適切な方式を選定することで中規模システムであっても十分な費用対効果を得られます。「SDIなんて大規模向けでしょう」とあきらめずに、ぜひシステム更改のタイミングではSDIを考慮しながら短期ではなく長期を見据えたITインフラのあるべき姿を検討してみてください。

 次回はSDIの中でもデータ管理に直接関連する新しいSDSについて、目的別に利用方法など詳しくご紹介したいと思います。

執筆者紹介・森本雅之

ファルコンストア・ジャパン株式会社 代表取締役社長。2005年入社。シニアストレージアーキテクトおよびテクニカル・ディレクターを経て2014年5月より現職。15年以上に渡って災害対策(DR)や事業継続計画(BCP)をテーマに、データ保護の観点からストレージを中心としたシステム設計や導入、サービス企画に携わる。現在はSoftware-Defined Storage技術によるシステム環境の近代化をテーマに活動中。


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