握手の裏の思惑は クラウド業界で加速する“協業と競争”Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2016年05月30日 14時00分 公開
[松岡功ITmedia]
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 この動きは、2016年3月にDellが発表した「ITサービス事業のNTTデータへの売却」と同じ流れにある。Dellのサービス部門も2009年にPerot Systemsを買収したものだが、HPEと同様にDellもここにきて「製品」の総合ベンダーへの方向性を明確にしており、同社のサービス事業を生かせるNTTデータに託した格好だ。

 HPEとDellの動きの背景にあるのは、クラウドサービスの台頭が従来のITサービス事業に影響を及ぼしているとみられることだ。とりわけ両社のサービス事業はアウトソーシングを中心としており、それがクラウドサービスに取って代わるケースも少なくないと推察される。クラウド化が進む中でそれを構成する「製品」に注力するHPEとDellが、今後どれだけの存在感を示してみせるかも注目されるところだ。

競争と協業が入り交じったクラウドベンダーの実情

 最後に、SAPとMicrosoftのクラウド分野での協業拡大は、SAPの最新ERP「S/4 HANA」を含むインメモリデータベース「SAP HANA」をMicrosoftのIaaS/PaaS「Microsoft Azure」で動作保証し、Azure上でのHANAの展開に両社が協力して取り組むことを柱に、両社のSaaSも密接に連携させていくという内容だ(関連記事参照)。

Photo 5月中旬に開催された「SAPPHIRE NOW 2016」の基調講演で握手するSAPのビル・マクダーモットCEO(左)とMicrosoftのサティア・ナデラCEO

 両社がクラウド分野での協業を最初に発表したのは2014年5月。Azure上でSAP製品を利用できるようにした形でHANAも対象になっていたが、今回の協業拡大ではその後SAPが投入したS/4 HANAや新たなSaaSも対象とし、相互利用環境を一層深めた格好だ。

 両社が協業を拡大した背景には、企業においてマルチクラウドやハイブリッド利用のニーズが高まってきていることがある。このため、クラウドサービスベンダーの間では競争と協業が入り交じった動きが見られる。

 最も象徴的なのはMicrosoftの動きだ。同社はこれまでOracle、Salesforce.com、IBMとも相次いで協業関係を結び、Azure上で各社の製品やサービスを利用できるようにするとともにSaaSの相互連携などを図ってきた。

 今回のSAPとMicrosoftの協業拡大を受けたベンダーの動きとして注目されるのは、SAPと競合するOracleがどのような対抗策を打ち出してくるかだ。これまでオンプレミスのデータベースでは圧倒的な存在感を保持してきたOracleだが、クラウド市場ではSAPのHANAが有力な対抗馬になる可能性が出てきた。

 以上、最近発表された3つの動きを見てきたが、いずれもITトレンドの新たな変動を映し出すものである。本格的なクラウド時代に向けて、これからもっとダイナミックな動きが出てくるだろう。それぞれの意味を今後も注意深く捉えていきたい。

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