握手の裏の思惑は クラウド業界で加速する“協業と競争”Weekly Memo(1/2 ページ)

「Salesforce.comが主要サービスのインフラにAWSを採用」「HPEがサービス部門を分離」「SAPとMicrosoftが協業拡大」―― 最近発表されたこれらの動きは果たして何を意味しているのか。

» 2016年05月30日 14時00分 公開
[松岡功ITmedia]

IaaSがユニバーサルサービスになる動きを象徴

 この2週間ほど、IT業界の新たな動きを象徴する大手ベンダーの発表が米国で相次いだ。直近から挙げると、5月25日にはSaleforce.comが主要クラウドサービスのインフラにAmazon Web Services(AWS)のIaaSを採用すると発表。同24日には、Hewlett Packard Enterprise(HPE)がサービス部門を分離して、ITサービス大手のComputer Sciences Corporation(CSC)と合併させると発表した。

 そして5月17日には、SAPとMicrosoftがクラウド分野で協業を拡大すると発表した。いずれもIT業界にとってはビッグニュースである。果たしてこれらの動きは何を意味しているのか。

 まず、Salesforce.comとAWSの動きは、Salesforce.comがこれまで自社運用していた営業支援サービス「Sales Cloud」やコールセンター用サービス「Service Cloud」、社内情報共有サービス「Community Cloud」、データ分析サービス「Analytics Cloud」などのSaaSのインフラにAWSのIaaSを採用するというもの。一部のサービスについては既にAWSを採用しているが、今回の発表で主要なSaaSをAWS上で展開することを明らかにした。

Photo Salesforce.comのマーク・ベニオフCEO

 Salesforce.comとしては、クラウドサービス事業全体の急速な拡大に伴い、インフラを自前で運用し続けるより信頼できる外部のIaaSを利用したほうが得策と判断したようだ。一部報道では、Salesforce.comがAWSに対して2020年までの4年契約で4億ドルを支払う見込みだという。

 この動きは、IaaSが電気・ガス・水道のようなユニバーサルサービスになっていくことを、一層明確に表しているように思う。Salesforce.comにとってはインフラを「所有」から「利用」へと転換したことで、今後の投資リスクを回避したものとみられる。

 ただ、ベンダー間の動きで注目されるのは、Salesforce.comがこれまで自前で運用してきたインフラにはOracleの製品が使われてきたことから、今回の動きで今後の両社の関係がどうなっていくかだ。これまでの両社の経緯から、「いつかOracleがSalesforce.comを買収するのではないか」との見方も根強くあっただけに、今後の動向が気になるところである。

従来のITサービスを侵食するクラウドサービス

Photo HPEのメグ・ホイットマンCEO

 次に、HPEによるサービス部門の分離をめぐる動きは、今後IT基盤を成すハードウェアとソフトウェアの「製品」に注力する方針を打ち出した同社にとってはまさしくリストラの一環である。

 分離するサービス部門は、前身のHPが2008年にElectronic Data Systems(EDS)を買収したものだが、ここ数年は厳しい事業状況にあったようだ。そこでCSCとの合併によって「サービス」に注力する会社を新たに設けた格好だ。

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