もし自分が急死したら…… 会社における「デジタル遺品」対策ハギーのデジタル道しるべ(2/2 ページ)

» 2016年07月22日 08時00分 公開
[萩原栄幸ITmedia]
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例2:敏腕査定士が残した写真データ

 上場の不動産会社に所属するサラリーマンのB主任は、ソコソコ優秀な土地家屋調査士として活躍していた。「良い出物がある」と聞けば、全国各地に出向いてその土地や建物を撮影し、値踏みをしてライバル企業より先に安値で仕入れる仕事ぶりが評価されていたのだ。ところが自宅の火事で大火傷を負い、救急車に運ばれたものの、搬送先で2時間後に帰らぬ人となった。

 B主任の死後、オフィスの机の中から全国で撮影された物件の写真データを保存している4本のUSBメモリが見つかった。

会社はB主任がどのように物件を評価していたのかを把握しようと、USBメモリを全て分析した。B主任が消去したファイルにも重要な手掛かりがあるだろうと、消去済みファイルも復元させたが、その中から想定外のモノが見つかった。戸建住宅を中心に風呂場の画像が1000枚以上もあり、そこには小学生から中年までと幅広いが、全て女性の入浴姿が映っていた。

 会社はこの事実の公表を一度見送った。犯罪を見逃すというより、公表によって余計な面倒をかけたくないことや、既に死亡しているB主任を追及するのは心苦しいという理由だったようだ。しかし、こういうたぐいの噂は往々にして外部に漏れる。死亡から数カ月後には、警察に知られることとなり、企業の担当者や管理者、経営者が警察からおとがめを受けた。B主任の生前の名声はあっという間に地に落ちた。

 デジタル遺品はプラスの情報だけとは限らず、このようにマイナスの情報も含まれる。


 これらから考えるべきことは、例2のように会社のリソース(例ではデジカメやUSBメモリなどがあたる)で法律に触れる行為をするのは、極めてリスクが高いということだ(個人のモノでもそうだが)。「この程度なら……」「他人は気が付かないだろう……」という安易な考えで悪事をすれば、死亡後にそのしっぺ返しを食らう場合があることを肝に銘じてほしい。

デジタル周りもいざという時の備えを(写真はイメージです)

 また、自己満足的な行動に走りがちという技術者なら、リスクマネジメントという考え方を良く理解し、安易な行動を絶対に控えるべきだ。「周囲は愚かだ。私がしてあげる」という思考に走る優秀な技術者は意外にも多い。常にリスクを回避し、分散化しておく基本がとても重要である。

 人間は「自分が突然死ぬわけがない」と思いがちだ。しかし万一死んでしまった場合に、同僚へスムーズに仕事を継承できる仕組みをいつも考えておくことが肝心である。終活カウンセラーもしていると、このことが実は情報セキュリティの基本にも通じると筆者は感じている。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

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