なぜスマートフォンはiPhoneみたいな形状ばかりなのかITの素朴な疑問に答える

スマートデバイスがまだ普及していないと言われる日本でも、すでにスマートフォンを余裕する世帯がケータイを持つ世帯を上回った。電車の中で目にするのは、おしなべて同じような板状のスマートフォンばかりだ。なぜなのか。

» 2016年10月15日 08時30分 公開

 内閣府が4月8日に発表した消費動向調査によると、日本国内のスマートフォンを保有する世帯の割合は67.4%で、いわゆる「ガラケー」と呼ばれる従来型の携帯電話を保有する世帯を初めて上回ったという。

 実際の契約回線に対するスマートフォン比率では、日本は他国に比べて比較的低い水準にとどまっているといわれるが、実際に街中を歩いていて人々がスマートフォンを使っている姿を目にしない日はない。そう考えると、もはやごく当たり前の情報ツールとして世間に認知されているといっていいだろう。

 ただ、それらのスマートフォンがおしなべて同じようなデザインだということが気になった人はいないだろうか。iPhoneを筆頭に、国内外のスマートフォンはほぼすべて板状のボディーに前面がすべてタッチパネル搭載ディスプレイという形状をしており、デザイン上の違いといえばそのサイズやボディーカラー程度だ。

 「最近はどの端末も個性や大きな違いがなくて飽きた」という声も聞こえ始めているが、実際のところは“この形状”が一番の売れ筋であり、あまり奇抜なものは求められていないのかもしれない。このトレンドを象徴するのがBlackBerryによる「QWERTYキーボードを搭載した(BlackBerryではお馴染みの)従来型のスマートフォン端末製造からの撤退」発表だ。

BlackBerry Classic 製造中止が決まった、QWERTYキーボード搭載の「BlackBerry Classic」
BlackBerry Priv 今後BlackBerryの主力製品となる、Android端末「BlackBerry Priv」。物理キーボードは引き続き搭載するものの、スライド式となり、キーの存在は控え目となっている

 BlackBerryといえば、かつてはスマートフォンの代名詞ともいわれた製品。特にビジネスユーザーの間では大人気であり、会議室では右を見ても左を見てもBlackBerryばかりということも珍しくなかった。

 BlackBerryは2013年の社名変更前までは「Research In Motion(RIM)」という名称で活動しており、カナダのウォータールー(トロント郊外)を拠点に無線通信を使ってデータ(テキスト情報等)をやり取りする技術の開発を手がける企業として知られていた。後にこの技術を使った「ページャー」端末(日本では「ポケベル」の愛称で呼ばれるもの)の開発と販売を行い、後にこれがBlackBerryの原型となった。

 企業システムと接続して電子メールのやり取りやグループウェアとの連携が可能な最初期の製品は2000年にリリースされた「BlackBerry 957」だ。ただ、BlackBerryの契約ユーザー数が100万を突破するのは2004年を待たねばならない。その後BlackBerryは比較的順調に契約ユーザー数を伸ばしていったものの、現在iPhoneが年間2億台以上販売されているという水準を考えれば、まだまだスマートフォン草創期の話といえる。

 BlackBerryといえば、ボディーの下半分を占めるQWERTY配列の物理キーボードがよく知られているが、試行錯誤を繰り返したうえでこの基本形状を初代BlackBerry 957から「BlackBerry Bold」、そして最後のモデルとなった「BlackBerry Classic」まで維持し続けたのは、対象となるのが企業ユーザー中心で、かつメール返信など文字入力に比重を置いていたことが大きい。

 ちなみに、この時期にはSamsungがBlackBerryブームにあやかって「BlackJack」という端末をリリースしていた。Nokiaからは、ぱっと見の外見は普通の携帯電話だが、本体側面を開くと携帯通信が可能な小型のミニコンピュータとなる「Nokia 9500」のような端末もリリースされた。

Nokia 9500 Nokia 9500

 このNokia 9500の前身となる「Nokia 9300」は、ブルース・ウィリス主演の映画「ダイハード 4.0(Live Free or Die Hard)」の劇中でハッカー青年がハッキング行為を行うための主力機器として使われていたことで知られている。いかにも最先端的なツールという印象を与えた劇中のシーンだが、この映画が全米公開されたのが2007年であり、この年にはiPhoneの初代モデルが発売されている。このiPhoneの登場とヒットをきっかけに、それまでキーボード付きが主流だったスマートフォンは全面タッチパネル式が主流となり、現在のトレンドが形作られている。

 この流れが意味するのは、一部のマニアやビジネスパーソンを主なユーザー層としていた製品が、市場が大きく拡大したことで一般ユーザーをも対象にするようになり、製品の使い方が大きく変化したことにある。企業向けのアプリケーションやサービスもiPhoneへの対応が進み、その作りや使い方が変化してくると、ますます旧来のBlackBerry型端末の居場所は少なくなり、今回の同社の決定に至ったと考える。

 iPhoneの世界が永遠というわけではないが、多くのユーザーの使い方が変化するような何かが登場するその時まで、iPhoneのような形状の端末はスマートフォンの主流としてしばらくは使われ続けることになるだろう。

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