前回の記事を読んだ方は「何か似たような展開だな」と思われたかもしれません。これはその通りで、シーンは違えど、背景には全く同じ問題があります。今回は少し視点を変えて、“局所最適”と“全体最適”に焦点を当ててこの問題を扱っていきます。
さて、この例では、担当者Aはパッチ適用にまつわる一部の、自分たちが今困っている業務(パッチ適用状況の確認)を解決したいという思いで話をしています。一方のベンダーBは、パッチがリリースされてから、適用が完了するまでの一連の流れ、つまり「パッチ適用」のプロセス全体を最適化する提案をしました。担当者の関心事が“点”とすれば、ベンダーの視点は“線”といえるでしょう。
業務の効率化を図りたいのであれば、パッチがリリースされてから、その適用が完了するまでの一連の流れで考えるのが筋です。ユーザーからすれば、「正しくタイムリーにパッチが適用されたかどうか」が大切なこと。一部の作業のみに焦点を当て、全体の目的を見失ってしまうのはナンセンスです。
あなたが、新大阪から東京までの新幹線のチケットを手に入れていたら、京都―名古屋間は新幹線で、それ以外は各駅停車のローカル線を使うでしょうか。これが部分最適のイメージですが、ITの現場では、これがしばしば当たり前のように(!)まかり通ってしまいます。今回はパッチ適用を例にしましたが、他の業務でもよくある話です。
残念ながら、ITの現場は分業化や複雑化が進んでおり、一担当の立場では一連の業務プロセスを見渡し「線」で捉えることは難しくなっています。会社全体の視点に立った観察が必要になりますが、会社全体を見渡せる「社長」と、ある部門の「担当者」では、見える世界は全く異なるでしょう。
そのため、前回の記事で紹介したポイントである、「“実施すること”ではなく“達成したいこと”を決裁者(スポンサー)と正しく認識を合わせる」ことが生きてきます。目的を見失わないことは簡単ではありませんが、どれだけ多くの人が目的を正しく理解しているかがプロジェクトの成否を分けるのは事実です。
そして「プロジェクト責任者に十分な権限を与え、経営層がそれをバックアップする」ことも、一部門ではなく会社として取り組む以上は必要でしょう。
さて、今回取り上げた局所最適と全体最適という観点では、もう1つ重要かつ失敗しやすい取り組みがあります。それが「標準化」です。次回はそれを取り上げようと思います。お楽しみに。
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