有力企業のトップに聞く 2017年、ITは何を生み出せるか

AIが生み出す安心を“東京2020 Ready”のレベルへ――NEC・新野社長2017年 新春インタビュー特集

2016年、AI関連のソリューションを立て続けに発表したNEC。技術革新のスピードが高まっている今、実用化を念頭に置いた研究開発が重要になるという。2017年は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で実用に耐え得るレベルへと人工知能の技術を磨くことが1つの目標になるようだ。

» 2017年01月06日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

新春インタビュー特集:「2017年、ITは何を生み出せるか?」

 「デジタル・ディスラプション」や「デジタル・トランスフォーメーション」という言葉に代表されるように、近年、デジタル化によって、既存のビジネスや社会の在り方が大きく変わろうとしています。

 ともすれば、危機感を煽るような捉え方になりがちですが、変化の後には必ず“創造”がある。その結果は、私たちにとって“よりよい”ものであるべきでしょう。2017年、ITは一体何を生み出せるのか――。本特集では、有力ベンダー各社のキーマンを中心に、その思いと取り組みを聞いていきます。

photo NEC 代表取締役執行役員社長 兼 CEOの新野隆氏

――2016年、社会が大きく変わったなと感じた場面はありましたか?

新野社長: AIの進化やICTの性能向上が、過去に比べてものすごいスピードで進んでいると感じています。それらの能力を使って、さまざまな新しいビジネスモデルが出てきたことが印象的でした。

 今までは一生懸命、設備投資をしながらいろんなシステムを作り込んで、ビジネスを作り上げるケースがほとんどでしたが、今やそれが大きく変化した。技術をうまく使えば、さほど大きな投資をしなくても、個人と個人を結び付けるマッチングビジネスだけで、それこそ時価総額数兆円のような企業がどんどん生まれてくる。最近では、UberやAirbnbがよく引き合いに出されますよね。

 昔は「AIを使って○○をやろう」とか「コンピュータを使って○○を実現したい」とか、「何をやりたい」ということが皆ある程度見えていて、それをどうやって、いつ実現するかというような話が大切だったけれど、今はある意味で“既にある技術を使えば何でもできてしまう”という部分がある。

 日本の場合はさまざまな規制などの関係で、理論上はできるのに実現できないケースも多いですが、相当なレベルまでICTやAIは進化しています。Fintechなんかもそうでしょうし、技術をどう使うのかを考えた人がどんどんビジネスを変えていく。「新しい分野でやったもん勝ち」という感じでしょうか。

 一方で、既存のビジネスモデルで成り立っている企業は、自分たちの立場や利益をどう守るか、自分たちも少しずつどう変化していくのか、と考えなければならない。難しい時代になったと思いますね。

 だから、われわれNECも、ICTやAIをどんどん進化させていこうと思います。ただ、それは何かのゴールに向かって進めるというよりも、「ここまで進化した」というレベルで何を変えていくのか、何を作っていくのか、というアウトプットに重きを置く姿勢が大切だと考えています。

――新しいビジネスモデルや価値という観点で、大きな成果があがった取り組みはありますか?

新野社長: 多数の実証実験をはじめ、さまざまなことに取り組んでいます。アルゼンチン ティグレ市の街中映像監視システムは、車の盗難を約80%減らし、市民や観光客にとって市全体が安全な場所になったという画期的な結果が出ました。監視カメラとAIを組み合わせた結果、市そのもののプレゼンスが一変したと言えるでしょう。また、安全で効率的な都市マネジメントを実現する取り組みとして、ニュージーランドの首都ウェリントン市では、欧州にあるクラウド・シティ・オペレーション・センターから市内に設置したセンサーのデータを分析しています。

 これからは、どれだけわれわれがデータをハンドリングして、より良いものにするかが一層大切になると思います。NECでは自社の最先端AI技術群を「NEC the WISE」と名付けており、”The WISE”には「賢者たち」という意味があります。AIはさまざまな強いエンジンを持っていても、そのエンジン自体に価値があるわけではなく、そのエンジンを使って、どういうデータでどういう価値を出していくかというところにゴールがあります。

 そのデータは必ずしもわれわれが持っているわけではありませんし、私たちのデータだけでは大した価値は出てきません。そのため、お客さまを含めて、いろいろな人たちと共創しながら、いかにいいデータをハンドリングできるのかということに尽きると思うんです。

photo

――2017年、ITは何を生み出すことができると考えていますか?

新野社長: われわれのパブリックセーフティ事業で言えば、これから、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて実現しようとすることは、その2年くらい前には活用モデルが出来上がっている必要があるでしょう。そのために、2017年に何ができるかということですね。

 例えば、今は静止している顔をいかにスピーディかつ正確に認証するか、という人工知能の技術で「世界でトップ」と言っていますが、本当にスタジアムで使うならば、大勢の人がいる場合や、ランニングポリスなど、動きながら画像を認識する場合などにも正確に対応できなければいけません。

 犯罪者はさまざまな変装をする可能性があります。映画などでよく出てきますが、赤の他人の顔を模したマスクをかぶって認証を突破するという方法だってあるでしょう。これを見破れないソフトは、世の中にいくらでもあります。でもNECならば、「これは変装マスクだ」と認識できる。

 認識の方法もどんどん変わってくると思います。広範囲な映像からさまざまなものが認識できるほかにも、「犯罪者をすぐに探す」「迷子をすぐ探す」「盗難車をすぐ探す」といったような、いろいろな応用があります。そういった技術がどんどん実用化されるでしょう。

――AIやICTの力で実現できることが格段に広がった今、競争に勝つために必要なものは何だと考えていますか?

新野社長: さまざまなプレイヤーの人たちにとって、われわれNECが、いかに共創、つまりコラボレーションできる対象として見られているかが大切だと考えています。

 結局、自分たちの強みをソリューションに仕立てて提案してきました。しかし、これからはわれわれが単独で製品やソリューションを開発して、それが本当にお客さまにとってそのまま価値になるかというと、そう簡単にはいきません。

 コラボレーションをするためには、共創相手にとって、より価値がある存在でなければいけません。そのためには、世界一の技術を持っておくことが必要だと思います。AIについても、NECの強みというのは、画像や映像から特徴点を引っ張ってきてマッチングするという技術です。これは顔でも指紋でも物体指紋でも全部同じ。それがいかに正確に、早くできるか。この分野については、他のITベンダーよりも群を抜いていると思っています。

 このコアの技術を磨きながら、さまざまなアプリケーションを作り、そこに共創相手の価値を組み合わせる、インテグレーターのポジションになれるかが勝負です。

 加えて、そうした技術を社会に実装するときには、それが本当に社会に受け入れられるものかをきちんと見極める必要がありますよね。単に優れているだけではなく、個人情報などの規制や法律といったさまざまな問題に配慮できるか。「できること」だけに目を奪われない、視野の広さも大事になると考えています。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ