サステナビリティのため、日本の未来のために“前のめり”の投資を――NEC・遠藤社長2016年 新春インタビュー特集

中期経営計画で社会ソリューション事業への注力を示しているNEC。この4月で社長のバトンを渡す遠藤氏は、ICTが社会に貢献できるテーマとして「サステナビリティ」を挙げた。2020年、そして「2020年以後」を見据えて“前のめり”な投資が必要だと語る。

» 2016年01月01日 10時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

新春インタビュー特集:「トップ企業に聞く、ITと社会貢献」

 自然破壊、超高齢化社会、経済格差、ダイバーシティ……現在、私たちの世界はさまざまな困難に直面しています。政界や経済界など、いろいろなプレイヤーがその解決に向けて動いていますが、近年はITベンダーも有力なプレイヤーになりつつあります。

 ITでどのように社会課題に向き合い、どう解決していくのか――。本特集では、有力ベンダー各社のキーマンに、その取り組みと思いを聞いていきます。

――近年、ITは人々の生活に欠かせない“社会インフラ”となっています。NECも自社が取り組むべき7つの社会価値創造テーマを掲げ、社会ソリューション事業に注力していますが、遠藤社長が今、このテーマの中で最も関心があるのはどの分野でしょうか。

遠藤社長: 一番大きな課題だと感じているのは“地球のサステナビリティ”ですね。先日パリでCOP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)が開かれていましたが、人間と地球の関係が崩れてしまうと、生活のみならず経済にも大きな影響を与えます。例えば、異常気象でインフラが大きなダメージを受ければ、その修繕に莫大な費用がかかる。

 サステナビリティと経済成長のバランスという話をする人もいますが、端的に言ってしまえば、安定性がないと絶対に経済は発展しませんよ。人間社会というレイヤーで言えば、これが安心や安全といった概念になるわけです。

photo NEC 代表取締役執行役員社長 遠藤信博氏

――サステナビリティを支えるために、NECはICTでどのような取り組みをしているのでしょうか。

遠藤社長: もちろん、サステナビリティにダイレクトに効果がある施策というのは難しいと思います。基本的にはCO2の排出を抑えるとか、エネルギーの効率的な伝送方法を考えるとか、CO2を出して創ったエネルギーをどれだけ効率的に使いきるかといったテーマに落として、ICTの「リアルタイム性」「ダイナミック性」「リモート性」という3つの特長でサポートしていくわけです。

 例えばICTによって、モノや人が移動しなくてもよくなったとなれば、移動にかかるCO2は減らせますよね。これも1つの答えです。

 中でも3Dプリンタなど3Dデータのやりとりはとても分かりやすい話でしょう。自社にノウハウがあるから、自分たちのところで作るといったロジックは通らなくなってきていて、データさえ送ってしまえば、海外だろうが現地でモノができるわけです。そうするとモノの移動が少なくなるわけですよ。

 物理的な移動の代わりに、情報の移動で価値が生まれればいいのです。これもCO2を排出しない大きな要因になりますよね。データが場所を飛び越えていく。これがICTのリモート性であり、活用の方法によって大きな価値を生み出すわけです。

――NECは昨年、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下 東京2020)のゴールドパートナー契約を結びましたが、社会ソリューション事業も2020年に向かって、さまざまな取り組みを展開していくのでしょうか。

遠藤社長: 2020年に向かって、というよりも2020年以降ですよね。ポスト2020と言いますか。その時代におけるサステナビリティや、その他の社会課題に貢献できるプラットフォームに近づけておくという視点で考えています。

 これは時代を先取りするという点で“前のめり”で開発を進めなければいけない部分もあると思うんですよ。2020年に向けてできる範囲でやろう、ではダメということです。それでは2020年以後に通用しなくなってしまうかもしれない。

 例えばSDN(Software-Defined Networking:ネットワークをソフトウェアで制御する概念)はかなり前のめりな取り組みだと思っています。「まだビジネスにはならないのではないか」と言う人もいますが、少しずつではあるけれど導入事例も出てきている。今後絶対に必要になると思って、われわれは確信を持って投資をしています。

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――SDNのほかにも“前のめり”を意識している事業はありますか?

遠藤社長: コンピューティングパワーの分野ですね。特にベクトル型スーパーコンピュータです。「SX-ACE」より小型の後継機を今作っていて、2017年に商用化する予定です。これも今後もデータ処理量が増え続けるなら、ベクトル型の演算処理しかないと考えて、投資をしているわけです。

 大規模データの処理というとマシンのパワーや計算のスピードに目が行きがちですけど、これからは省電力という点も大きなポイントになります。データの処理量が増えるというのは、すなわちエネルギーをそれだけ消費します。

 われわれも東京工業大学などと協力してスパコン「TSUBAME」を開発しましたが、省エネという面で世界トップクラスの性能を誇ります。サステナビリティという面でも、これからは“1ワットでどれだけの計算ができるか”という基準が大切になってくるかもしれませんね。特にモノが小さくなればなるほど、使える電力が限られてくるから効率が重要になります。

――電力効率やサステナビリティに人の価値観が向いてくるということですか。

遠藤社長: 絶対にそうなると思っています。先ほども話しましたが、サステナビリティに使うリソースは膨大なものがあります。2015年9月に鬼怒川が氾濫したのは記憶に新しいですが、あれもまだ復興には時間がかかるでしょう。これこそ復興に莫大なお金と労力が必要なことを意味しています。

 1人1人がインフラのメンテナンスに払うお金が税金そのものですから、それが破壊されれば、国家経済そのものがダメージを受けます。こういうケースが増えていけば、国家の予算もそちらに使うことになり、開発投資や経済にお金が回らなくなるわけです。そういう話に目を向けざるを得なくなったから、COP21で話がまとまったんだと思いますよ。

 規模の大きな話ではありますが、ICTは必ず力になる。これは確実ですね。むしろICTこそが力になる。やはり情報というのは、それだけ価値があるっていうことだと思いますけどね。

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――その価値を体現するために動いていくということですね。

遠藤社長: そういう意味では、東京2020は日本にとって非常にいい機会を与えてもらったと思っているんです。ああいうイベントで安心、安全、効率、公平というのを作ろうとすれば、そのためのプラットフォームに投資が向いてきますから。

 今の若い人はあまりピンと来ないかもしれませんが、1964年の東京オリンピックは、日本のインフラにとって非常に重要なポイントになりました。例えば新幹線。僕は新幹線を作ったことで日本の経済は発展したと思っています。あれはかなり無理をしてお金をつぎ込んで作ったんですよ。そういう意味では非常に“前のめり”な取り組みでした。東京オリンピックがなければ、あのタイミングで新幹線は作らなかったでしょう。

 あのときにNECは、世界初の衛星テレビ中継において大きな貢献をしました。静止衛星がほぼなかった時代にとても苦労したと聞いていますが、通信機器の開発や制作をやりぬき、全世界への放映が実現したわけです。

 そういう意味で、インフラ投資も含めて日本が変わるチャンスであると思っています。その起爆剤であり、リードするのがICTの力なのだと思いますね。

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