「ITを経営の武器に」――。デジタル技術が旧来の事業モデルを“破壊”すると言われる現在において、この言葉を実践できるかが企業の存亡にかかわるとされる。リコーが取り組み状況を語った。
昨今のエンタープライズIT業界では「デジタルディスラプション」(デジタルがもたらす破壊)という言葉が“踊る”。旧来の事業モデルにとらわれない新興企業が、クラウドやビッグデータ、モバイル、ソーシャル、IoT、AIといったさまざまな技術を駆使して急成長している様はその代表だろう。この状況に、老舗企業はどう挑むのか。
リコーは、2月上旬に開催されたネットアップのカンファレンスで、「ITを経営の戦略的な武器に」というテーマの事例講演を行った。オフィスのIT化を指す言葉といえば、「オフィスオートメーション」(OA)が有名だが、実はこの言葉を複写機業界で初めて提唱したのはリコーだという(同社サイトによれば1977年とのこと)。講演では執行役員 コーポレート統括本部の石野普之副本部長が、老舗複写機メーカーにおけるITの取り組みを紹介している。
世界中で稼働する数百万台の複写機をITでどう支えるか――石野氏によれば、かつての同社では、グローバルに展開している複写機や複合機(MFP)のビジネスをより成長させていくために、どうITを活用していくかが経営課題だった。
冒頭の「デジタルディスラプション」を体現する企業として石野氏が挙げたのは、UberやAirbnbだ。いずれもテクノロジーを駆使し、それぞれの属する業界の老舗企業が何十年もかけて広げてきた世界中で利用されるサービスを、創業からわずか数年で実現させた。それこそが、ITを“武器”にしているデジタル企業の“すごさ”だという。
「ITを経営の武器に」というフレーズは、エンタープライズIT業界では昔から叫ばれてきた。石野氏が語るところでは、ITを“道具”としてではなく“武器”として表現しているのがポイントになるようだ。
“道具”としてITを使うのであれば、その効用は業務の効率化あるいはコストの削減といった範囲にとどまる。「デジタルディスラプション」の渦中にある現在では、老舗企業も新興企業も同じ市場でライバルとして戦わざるを得ない。ライバルとの戦いに勝つには、ITを道具ではなく武器として使う。「武器として使っても効果を得られる保証はなく、使うにはリスクを伴う。しかしビジネスを創造するには、ITを武器として使わないといけいない」(石野氏)
リコーは、経営戦略を実行する武器としてITを使うために、4つの方針を打ち立てる。その1つの「全社構造改革」だけ見ても取り組みは多岐にわたるが、例えば、日本企業の経営テーマに掲げられるようになった「働き方改革」では、複写機メーカーとしての商品の強みを生かしたワークフローの最適化に始まり、オフィス環境の最適化やコミュニケーション/コラボレーションの推進に取り組み、それらの下地を整えた上で新規事業の創造を軸とする「働き方改革」に取り組んでいるという。
多くの企業が取り組み出す「働き方改革」は、同社にとっても大きなビジネスチャンスといえるが、「オフィスワーカーの生産性向上を顧客に提案しようにも、自社の成果なしには、しようがない」と石野氏。この取り組みに関わるITは、オフィス機器やワークフローシステム、会議システム、ユニファイドコミュニケーションといったものになるが、それらを“武器”として使う目的は、「働き方改革」という新しいビジネスチャンスを生かすことにあった。
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