データさえ集まれば何かが分かるのでは――。そんな“夢物語”を抱き、仮説を立てずに集めるデータを増やそうとする人は多いものです。しかし、そんなうまい話があるはずもなく……?
さまざまな種類のデータを追加し続けることで、ユーザーの輪郭を浮かび上がらせ、なぜそのような行動を取るのか? という洞察(インサイト)の発見につなげる――。DMPでビジネスの効果を得るためには、“運用”の部分がキモだと言っても過言ではありません。しかし、データを追加していく過程で、次のような声を聞くこともあります。
データは重要だ!という号令がかかって、とにかくDMP上にデータを集めることになりました。けれども、統合しても既存のデータにほとんどひも付かないんです。確かにデータは大事だけど、データだったら何でもいいって話でもないんだよな。結局、統合作業や連携業務に手を取られてしまい、急に進みが悪くなったようにも思われて……本当に最悪です!
前回の記事で紹介したような「インサイトが浮かばない!」という状況では、「それは集めたデータが悪いからだ」と、もっとデータを集める方向の施策が行われることがほとんどです。
確かに集まったデータが多いほど、ユーザーの輪郭が浮き彫りになり、インサイトを発見しやすいのは事実です。しかし、インサイトを発見するのにデータは多くなければいけないかと言えば、そんなことはありません。それよりも、インサイトにつながる「仮説」を持つことのほうが、よほど重要です。
そもそも、インサイトを発見するために必要なデータは限られています。問題はそのデータがどれかが分からない。だからこそ、DMP運用者は多くのデータを集めようとします。つまり、驚くほど多くのDMP運用者が心のどこかで「データさえ集まれば何かが分かる」という淡い期待を抱いているのです。
しかし、実際はデータを集めても何も分からず、「データが足りないからだ!」と余計データ集めに奔走する……これでは終わりなきループです。そこで今回は、DMPの運用で必要な「仮説の作り方」についてお話ししたいと思います。
エイブラハム・ウォルドというハンガリー出身の数学者をご存じですか? 彼は第二次世界大戦当時、米軍のために、効率的な魚雷の発射法やミサイルの空力効率など、さまざまな問題の分析に従事していました。そんなある日、爆撃機を強化する装甲が必要な場所の優先順位を考える任務に就くことになりました。
データはそろっていました。空軍が手間をかけて、無事に帰還した爆撃機の破損状況を調べていたからです。爆撃機の損傷には明確なパターンがあり、その多くは翼も胴体も蜂の巣のように穴が開いていましたが、コックピットと尾翼にはその傾向がありませんでした。
このデータを見た軍関係者は、多くの穴が開いていた機体部分に装甲を施すことを提案しましたが、ウォルドは反対しました。皆さんはこの理由が分かりますか?
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