次世代チップで進化を続けるARMから目が離せないMostly Harmless

IoTやAIなど、次世代テクノロジーにフォーカスして進化を続けるARM。昨今の気になる動きをまとめた。

» 2017年05月29日 08時00分 公開
[大越章司ITmedia]

この記事は大越章司氏のブログ「Mostly Harmless」より転載、編集しています。


 先日、こんなニュースが飛び込んできました。

 タイトルが刺激的なので思わず反応してしまいましたが、内容は体内埋め込み型の医療用チップをワシントン大学と「これから」共同開発します、というもので、まだ何かの成果があったわけではなさそうです。

 これに限らず、ARMはこのところIoTへの展開を積極的にアピールしています。しかも、ソフトバンクに買収されてから、ARMの発表が多く、かつ派手に(笑)なってきたように思います。もともと“実力はあったけれども「知る人ぞ知る」会社”で、それでいいと思っていたのが、方針を転換して、ARMそのものをブランド化しようとしているかのようです。

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 ネットコマースの斎藤氏と一緒に教えているITソリューション塾は、2017年で9年目に突入しましたが、始めて2年目くらい(2010年)からARMの話をしています。毎回、「ARMって知ってますか?」という問いから始めるのですが、2016年まではほとんどの人が知りませんでした。買収後は少し知っている人が増えましたが、それでもまだ半分以下です。これだけ普及しているのに、こんなに知られていない会社も珍しいのではないでしょうか。

 塾でこの話をしつこくしているのは、塾のテーマでもある「知ることの意味」を実感できる格好の教材だからです。「ARM」や「アーム」という言葉は、ニュースに流れていて見ているはずなのに、それに気づいていない人が多いのです。しかし、塾でその正体、実績、歴史、今後の可能性について15分ほど話を聞いただけで、翌日からニュースの見え方が変わるのを実感できるはずです。

 それまで気付く気付かずにスルーしていたニュースをキャッチできるようになるのです。アンテナが1本新しく立つような感じでしょうか。情報収集力というのは、こうして強くなっていくのではないかと思います。

 ARMについてのニュースでもっと興味深いのが、少し前に発表された「DynamIQ」アーキテクチャです。

 どうも、発表時に「AIを高速化する」というメッセージを強く打ち出したために、「AI専用」的な報道もされたようです。上の記事では「DynamIQは、AI(Artificial Intelligence)やML(Machine Learning)との関連を強調したARMのマーケティング戦略によって、AI/MLに特化したアーキテクチャのようなイメージを持たれた」と書いています。実態は、単純な(そのために回路も小さく、消費電力も少ない)処理を行うコアと複雑な処理を行うコアを柔軟に組み合わせてさまざまな構成を取れる、汎用(はんよう)的なアーキテクチャだということです。

 とはいえ、この構成がAIを高速化するために有利に働くことは事実でしょう。AI/ML専用といってよいGPU(GPUは元はグラフィックス用ですから、厳密には専用ではありませんが)やTPUと違い、汎用の処理とAI/ML処理を1つのチップに共存できるようになります。

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 さらに新しい命令が追加されることで「AI/MLワークロードでは、今後3〜5年間で性能が最大で50倍に上がる」(PC Watch)ということです。これはやはり、AIの利用をかなり意識しているということでしょう。ちなみに上の記事では「これは、低データ精度に対応したSIMD(Single Instruction Multiple Data)によって、インファレンス(推論)アクサラレートを行うものと推測される」と予想しています。

 これは、先日書いたTPUの記事にも関連があります。「低データ精度」は、64ビットや32ビットではなく、もっと低い精度をサポートする(TPUの8ビットほどではないかもしれませんが)ということでしょう。

 また、TPUが高速化しようとしている行列計算というのは、大量のデータ(multiple-data)に対して、かけ算、足し算などの単一処理(single-instruction)を行うことで、これがSIMDです。そして「推論」が高速化されます。

 そういえば、2016年の買収直後の記事で、こんなのもありました。

 スパコン「京」の次世代機にARMの「命令セット」を採用するということです。ARMの「アーキテクチャ」でなく「命令セット」なのが分かりにくいところですが、取りあえずそれは置いておいて、ARMが世界的に大量に普及していることが採用の決め手になったということでしょう。記事では「仲間がいるプラットフォームへ移行することにした」と説明しています。

 自社でSpark用にLinuxを最適化するのは大変ですが、ARM用に最適化されたLinuxはいくらでもあります。他にも、開発ツールやライブラリ、ドライバなど、既にあるものを活用できるのは大きなアドバンテージです。1社や数社で何もかもそろえるのは不可能な時代、既存の資産の活用やコミュニティーからの協力をいかに得ていくかが重要になっているのでしょう。

 IoTからスパコンまで、今のARMには死角がないように見えます。

著者プロフィール:大越章司

外資系ソフトウェア/ハードウェアベンダーでマーケティングを経験。現在はIT企業向けのマーケティングコンサルタント。詳しいプロフィールはこちら


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