冒頭に示したGartnerの予測によると、AIによって人の仕事が「消失」する数と「創出」される数を差し引きした正味の数は「50万件」となる。この数字から推察すると、業界によっては消失が創出を上回ることもあり得そうだ。
そこで、会見の質疑応答で、「AIが人の仕事の多くに取って代わる可能性がある中で、仕事を失った人はより創造的な分野へ転身すればよいとよくいわれているが、多くの人が急にそんなスキルを持てるわけではない。結局、AIは失業者を溢れさせることになるのではないか」と単刀直入に聞いてみた。すると、ウィリス氏は次のように答えた。
「確かに、定型的な仕事はAIに置き換えられていくだろう。ただ、ここで理解しておくべきなのは、仕事としてAIに置き換わればクオリティーが上がるものは早晩、置き換わっていくだろうということだ。では、人はどうすればよいのか。人の歴史を振り返ってみると、文明の移り変わりとともに発展し、新しい技術を活用することでより良い社会や生活を実現しようとしてきた。その意味では、AIを活用したサービスによって、これまでになかったような人の仕事が創出される可能性も十分にある。それはAIが主体なのではなく、あくまで人の仕事をAIが補完した形になると考えている」
キーワードは「AIを活用したサービス」。これはウィリス氏が先述した「AIを創造的に活用すること」とも共通した言葉である。
もう1つ、ウィリス氏が取り上げた図で興味深いものがあったので、掲載しておきたい(図1)。AIのほか、IoT、APIといった今もっともIT業界で旬の言葉を取り上げて、それぞれの今後の時間と価値の推移を予測したものである。同氏によると、IoTは「活用に向けた動きが加速しており、比較的早く効果が明確になってくる」、APIは「利用は進むが、技術的な要件に加え、人が介在する部分も少なくないので、価値が高まってくるのには時間がかかる」とのことだ。
そして、AIについては「見ての通り、少し横に伸びたS字曲線を描いている。これは今後、企業や行政がAIをさまざまなところで採用するにあたって、反発の動きが出てくるのではないかと想定しているからだ」との見解を示した。
その反発とは、やはり「人の仕事」に関わることなのだろう。ただ、単に仕事の消失と創出の議論を続けていても仕方がない。仕事そのもののクオリティーをさらに上げるためにも、「AIを活用したサービス」を使った仕事の創出に注力すべきだろう。ウィリス氏の話を聞いてそう思った。
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