開発中の機能をユーザーに試してもらい、フィードバックを生かしてOSをよりよいものにしていく――。MicrosoftがWindows 10で導入したユーザーフィードバックシステム「Windows Insider Program」は、OS開発においてどんな役割を果たしたのか。
「Windows 10」の機能面とは異なる特徴の1つに、「Windows Insider Program(WIP)」の存在がある。
WIPは、Windows 10の開発中の新機能を、プレビュー版を通じて全世界のユーザーに利用してもらい、そこから得た要望やフィードバックをWindows 10の機能向上に役立てる仕組みだ。例えば、「エクスプローラー」のアイコンを変更した際に、WIP登録者から「アイコンのデザインに好感が持てない」というフィードバックが殺到したため、数週間後に変更するといったことを行っている。
MicrosoftではWIPを、「Microsoftの歴史において最大のパブリックプレビュープログラム」と位置付けている。
WIPが開始されたのは2014年10月で、2015年7月のWindows 10の正式リリース前から導入されている。Microsoft社内の開発者だけでなく、誰でも参加できる仕組みを作り、外部のユーザーや開発者のフィードバックを取り入れることで、「愛されるWindows」を、多くの人とともに作り上げていくのが狙いの1つだ。
個人向けアカウントの「Microsoft アカウント」(MSA)や、企業アカウントの「Azure Active Directory」(AAD)を使用してWIPに登録すれば、「Windows 10 Insider Preview ビルド」をダウンロードして、いち早くWindows 10の新機能を体験できるほか、Windows Insiderのメンバーとして、多様なグローバルコミュニティーに参加し、スキルを生かしたコミュニティー支援などを行える。
また、最新の「Windows 10 SDK Insider Preview ビルド」をダウンロードして、「Windows 10 ソフトウェア開発キット(SDK)」と「モバイル エミュレーター」のプレリリース版を使用でき、開発者フォーラムでのフィードバックの提供や最新情報の入手、Insiderイベントへの参加などが可能だ。
WIPには、「Fast Ring」「Slow Ring」「Release Preview Ring」の3つが用意されており、各リングは安定性のレベルとビルドリリースの頻度が異なる。
Fast Ringはリスクは大きいものの、新たな機能や改善された機能をいち早く取得できる。Slow Ringは、Fast RingでWIP登録者から寄せられたフィードバックをエンジニアチームが分析し、問題修正を反映したものが提供されるため、よりリスクを抑えながらプレビュービルドを確認できる。Release Preview Ringは、新しいWindowsビルドを入手せずに、最新のアプリケーション、ドライバー、修正プログラムを受け取れる。より安定した環境で利用したいのであれば、Release Preview Ringがお勧めだ。
新たな機能に関する意見や感想は、スタートメニューのアプリ一覧にある「フィードバック Hub」からフィードバックでき、ここに書き込まれた内容は、Windowsのエンジニアに直接送られる。
現在、WIPへの登録者数は1000万人以上に達しているという。実際、日本のWIP登録者からのフィードバックも多く、Windows 10の進化に貢献している。
Microsoftでは、地域別にどれぐらいのフィードバックがあったかといった集計は発表していないが、例えば2016年10月に開催した「Windows 10 日本語入力誤変換マラソン」では、100件以上の誤変換報告を収集。これを基に「Microsoft IME」を修正してWIP向けに提供し、WIPを通じてさらに変換精度を高めることができたという。こうした日本固有の機能はもちろん、「日本のWIP登録者からの要望も確実に活用されている」(日本マイクロソフト)という。
日本におけるWIPのコミュニティー活動も活発だ。
例えば、WIPに登録している日本のユーザーや開発者が集まるイベント「Windows Insider Meetup in Japan」は、東京と大阪で既に2回ずつ開催。60〜100人が参加して、フィードバックがどのように製品に反映されているかといった仕組みや、Windows 10 の便利な機能、WIPに参加するメリットや日本マイクロソフトへの要望を語り合うなど、WIP登録者のリアルな情報交換の場となっている。2018年には2〜3月にかけて、東京と大阪で第3弾のWindows Insider Meetup in Japanの開催が予定されているという。
また、日本マイクロソフトによると、2018年は、企業の情報システム部門を対象に、Windows 10の導入検証や運用にWIPを活用してもらうための企画を準備しているとのことで、1月中にはこの詳細が発表されるという。情報システム部門にとっても、新たな機能をいち早く検証できるWIPは有効な手段となりそうだ。
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