超高速開発は、従来のシステム開発の課題を全て解決するわけではありません。実際の導入事例を参照しながら、どんな案件が超高速開発に向いているのか見極めるコツを伝授します。
「超高速開発のリアル」を本音でお伝えする本連載は、第1回で「超高速開発」がどのようなものであるかについてご紹介しました。超高速開発は、従来のシステム開発の課題を全て解決する“銀の弾丸”というわけではありません。システム開発案件が超高速開発に向いているか否かを見極める必要があります。
第2回の今回は、筆者が担当するSCSKの「FastAPP※1」を使った超高速開発の事例を通して、“リアル”な実態と見極めのポイントをご紹介します。
なお、連載は全3回を予定しています。
第1回で解説した通り、超高速開発では開発期間の3割以上を占める「実装・単体テスト」の工程を省略することで工期短縮と高い生産性を実現します。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査結果を見ると、超高速開発は他の手法に比べて工期、工数ともに少ないことが分かります。超高速開発では、設計段階からアプリケーションを実行(または生成)するツールを使用することで、実装・単体テスト工程を省略できるため、工期や工数を減らせるのです。
しかし、超高速開発ツールを使用すれば必ず工数や工期を短縮できるというわけではありません。同じ超高速開発を行った事例でも、その成果には以下のようなばらつきがあります。
事例1 | 事例2 | 事例3 | |
---|---|---|---|
画面数 | 29 | 67 | 118 |
機能数 | 89 | 335 | 938 |
開発期間 | 2カ月 | 2.5カ月 | 10カ月 |
自社FP数※3 | 371FP | 773FP | 3306FP |
開発生産性 | 74FP/人月 | 62FP/人月 | 30FP/人月 |
標準外の成果物作成や、標準では実施しない単体テストを行うなど、「標準外の作業」を行うことで工期、工数が増えてしまいます。
超高速開発のメリットを享受できるかどうかは、「いかに前提となっている開発標準に沿った開発を行えるか」にかかっています。うまくいけば、これまで1年かかっていた開発期間を3カ月に、開発コストを20分の1〜50分の1にすることも可能です。
ところで、超高速開発ツールを紹介していると、「ツールにロックインされるのではないか」と聞かれることがよくあります。確かにツールAで開発したアプリケーションをツールBで保守したり、簡単に移行したりすることはできません。
とはいえ、いたずらにロックイン回避を優先するのも正しい判断とはいえません。自社の目的や優先順位によって、ロックインに対する判断は変わってくるはずです。例えば「開発生産性を高めること」が最優先課題なのであれば、ロックイン回避のためにそれを実現できるツールを使わないのではなく、ツールを使って開発するSIerを複数社から選択できるようにしたり、内製化も選択できるようにすることでツールにロックインされるデメリットを緩和したりという判断もあります。
超高速開発ツールに限ったことではありませんが、「何が目的か」「何を優先すべきか」という視点を持って、開発・運用の全体を通してのメリット・デメリットを判断することが重要ではないでしょうか。
※1: FastAPP(呼称:ファストアップ)は、SCSKが提供する「実行エンジン型」の超高速開発・実行基盤、及びサービス
※2: カスタマイズ:プログラムを書いて超高速開発ツールが生成した画面や機能の変更や拡張を行うこと
※3: SCSKの指標に基づくファンクションポイント数
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