新たな技術の出現でサイバー犯罪はどう進化する? インターポールが示す未来の攻撃ITmedia エンタープライズ セキュリティセミナー(2/2 ページ)

» 2018年02月21日 07時00分 公開
[タンクフルITmedia]
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新たなテクノロジーの出現で進化を遂げる犯罪

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 さまざまなモノがインターネットにつながるこれからの時代、犯罪はどのように進化するのか。「コネクティビティ」がキーとなる今後の社会では、家も車も街も国もつながっていく。これは経済発展の面で大きなメリットをもたらす一方、「犯罪者たちがネットワークを使ってどうやって金もうけをするか、テロを起こすかと考えるだろう」と中谷氏は指摘する。

 ニースやロンドンで発生した車を使ったテロは記憶に新しいが、無人運転のいわゆるスマートカーのシステムをハッキングすれば、複数の車を遠隔操作してインパクトの大きいテロを起こすことが可能になる。フランスの大手鉄道会社では、2023年にTGV(高速列車)を自動化するが、これも悪用される恐れがある。「“つながることと自動化”は、犯罪者に大きなチャンスを与えることになりかねない」と中谷氏は注意を促す。

 中谷氏はほかにも、日本の国立研究所が行った“ロボット蜂”に関する研究を紹介した。これは、ドローンの超小型版ともいえる“ミニロボット蜂”を使って受粉をさせる研究で、生態系の維持が目的だ。ただ、このような生態系にとって有用な仕組みも、犯罪者の観点から見ると懸念があるという。人工知能(AI)やGPS機能を搭載した小型ドローンを遠隔操作して、あたかも弾丸のように使うことによって、人の暗殺に使えるからだ。

 「どんな技術でどのような『悪の化学作用』が起きるのかは研究されていない。われわれはこういったテクノロジーの観点から、将来どういった犯罪が起こり得るのか研究し、各国の警察にとって『想定外だった』の事件が起こらないよう、さまざまな研究をしている。技術の進化のスピードは速く、今は不可能なことでも、5年後、10年後にどうなるかは分からない」(中谷氏)。

サイバー犯罪捜査に欠かせない官民連携

 このようなサイバー犯罪を防ぐため、インターポールはどのような対策をしているのか。

 警察の武器は各国の法律だが、国家を超えた犯罪であるサイバー犯罪を取り締まる法律の制定が不十分であることも、サイバー犯罪の捜査を難しくしていると中谷氏は指摘する。「警察庁の統計によると、警察へ届け出があったサイバー犯罪は8000件。そのうち送検されたのが2000件で、有罪になったのは1200件と15%ほど。他の犯罪に比べて非常に低い。証拠となるデジタルデータが海外にあることや、技術の進化のスピードが法律やポリシーに比べて圧倒的に速いことが、捜査を困難にしている」(中谷氏)。

 こうした中、インターポールは各国の警察の捜査をサポートするため、情報を集約する拠点を設けて民間と共同で脅威情報の分析を行っている。中谷氏は、「こういった取り組みにおいては、民間との協力関係が重要」と訴える。その上で、知る人を限定する「Need to Know」から「Need to Share」への転換が求められると強調。内向きの情報共有ではなく、外向きの情報共有があるべき姿だと述べた。

 もう1つ重要なのは、「セキュリティの司令塔」の存在だと言う。

 中谷氏が提示した情報処理推進機構(IPA)の資料によると、CISO(Chief Information Security Officer:最高情報セキュリティ責任者)を任命している組織は、日本では27.9%だった。その上で、情報セキュリティを強化するには、監視カメラなどのフィジカルセキュリティのサポートも必要と指摘。「そういう意味で、CSO(Chief Security Officer:最高セキュリティ責任者)を置く組織も増えている。サイバー空間と現実空間のセキュリティを総合的に考えるのが最善ではないか」と提案した上で、「犯罪のトレンドは変わるので、将来を見据えながら対応することが重要。グローバルの視点では、日本の対策は遅れてもいないし進んでもいない。ただ改善の余地はあるので、今日の話を今後の参考にしてもらいたい」と呼びかけた。

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