それでは具体的な例を紹介しましょう。
Aさんは、業務としてAI(人工知能)に学習させるデータを集めるために、サーバ内のフォルダに保存された1000以上のPDFファイルから、特定のページのレポートをExcelに抜き出すことになりました。
一つ一つのファイルを開いて特定のページに移動し、特定のセクションのレポートをコピー&ペースト。ちゃんとコピーされたか確認して、ファイルを閉じて、また次のファイルを開いて……作業自体は単純ですが、気の遠くなるような繰り返し作業です。
PDF上でコピーのためにカーソルを動かしてもうまくポイントされないこともあるでしょうし、イライラすること間違いなし。1時間に100個のファイルを処理しても、業務時間内に終わるか怪しいものです。そもそも、1時間当たり100ファイルのペースをキープするのも難しいでしょう。
たとえ、そんな作業をせずに済むソリューションがあったとしても、有償であれば購入の稟議(りんぎ)を出さなくてはなりません。一度きりの作業のために、そんな労力を割こうという人も少ないと思います。
こんな状況も、自分自身がソフトウェアロボットを開発できれば大きく変わります。PDFからのテキスト抽出やExcelへの書き込みも簡単にできる――そんなRPAソフトウェアは少なくありません。使い方も簡単で、できる機能さえ把握すれば、あとは作業を繰り返し実行するロジックを書くだけ。コピーする対象範囲の特定に多少の工夫は必要ですが、慣れれば30分程度で簡単なロボットが作れてしまうのです。
ロボットに作業を実行させれば、あとはその作業内容を確認するだけ。1日中かかるような(場合によっては数日を費やす羽目になる)退屈な作業を、ロボットの開発まで含めて1時間弱で終わらせられます。もちろん、ロボットが作業を実行する間は何もしなくていいので、次の工程の準備や他の業務をしてもOK。これで、生産性は何倍になるでしょうか。世の中には、意外とこんな仕事が溢れていると思いませんか?
このように、ユーザー自身がロボットを作ることで、たとえ一度きりの利用であっても、業務の生産性が大きく向上します。システム開発業者への委託という考え方では、依頼しようとも思わない案件でしょう。
もちろん、これはあくまで一例です。このような業務が全てではないですし、システム開発会社を否定するものでもありません。しかし、ロボット作成者の候補に業務部門が加わることで、業務自動化の範囲がより広がるのは事実です。一つ一つの効果は小さくても、それが集まることで大きな効果をもたらす――それは、Amazon.co.jpが小売業に登場した際、ロングテール戦略で市場を勝ち取った様子に似ているかもしれません。
実はこれ以外にも、ユーザー自身がロボットを作ることのメリットがあるのですが、それは次回でお話ししたいと思います。お楽しみに。
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