日本のCIOは「CxO四天王の中で最弱」? この状況はどうしたら変わるのかCIOへの道(2/5 ページ)

» 2018年08月20日 07時00分 公開

中野氏 そうですね。新しい技術には触れたいですが、今回の「5並列システム刷新プロジェクト」では、満たすべき基準の方が先にありましたね。しかし、これが思いの外キツかった。今回、ERPにWorkdayを選んだのも、ある意味、消去法だったんです。

Photo 1年半でシステムを刷新した5並列プロジェクト

 クックパッドの経営戦略やグローバル戦略、保有するリソース、導入パートナーの信頼性、API、シングルサインオン、クラウドサービスといったシステム要件などを鑑みて選んでいくと、Workdayしか残らなかった。ただ、選択肢が次々となくなっていく中でも、選定条件は貫徹しました。特に最初に決めた、「会計と人事はシステムをまとめる」「システム連携ができる」という2つは取り下げませんでした。

 とはいえWorkdayは、日本国内で人事パッケージとしては導入例があるものの、会計パッケージとしては日本初の導入でした。しかも、Workday Financeは私たちが選定した当時(2016年末)はPwCさんしか導入できない状況で、パートナーも1社しかなかったから、コンペもできない(笑)。導入を決める際には相当な覚悟が必要でしたね。自分で選定したものの、「え? これやるの? ほんとに?」みたいな。初物に地雷は付きものですから……。

白川氏 「地雷上等」だったわけですね!

中野氏 いやいや、地雷が好きな情シスなんていませんよ!(笑)ただでさえシステムの変化を歓迎する現場なんて少ないし、炎上でもさせようものなら上下左右、四方八方の全方位から袋だたきに遭いますからね。特に、システムやプロセスの刷新のような、“全体から落としていく案件”は、現場のスタッフレベルには評判が悪いのが常です。しかも外資系企業で働いたことがある人なら分かると思いますが、グローバル統一のシステムは無骨で素っ気ないので、UI・UXを重視する日本人の感覚に合わないことが多い。

 おまけに、海外を含めたプロセスの標準化が大目標になるので、小回りの利くシステムにはなりません。“日本国内でそこそこやっていくシステム”と“海外で勝つためのシステム”は性質が大きく異なるのですよ。よく言う「プロセスをシステムに合わせていく」スタイルにならざるを得ない。現場固有の事情をどこまで変えていけるかが重要なのですが、これがまた難しい。

 システムの刷新は、例えプロジェクトが成功したとしても、半分くらいに理解されれば相当良い方です。多くの人にはその意味も理解されず、「余計なことしてくれた」と文句を言われるのが常です。石が飛んでくるのはもちろん承知の上でした、嫌ですけど(笑)。これだけのプロジェクトを大炎上させて、大失敗することになったら鎮火と敗戦処理をした上で辞める覚悟でした。

 というわけで、地雷が楽しみな情シスがいたら、ぜひ話してみたい(笑)

Photo ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズのバイスプレジデント、白川克氏

白川氏 私たちは大企業のお客さんとお付き合いする機会が多いのですが、そういう会社さんはクックパッドさんとは違って、それこそ「石をたたいてたたいて壊して、結局渡らない」というところが多いですね。別にそのこと自体は悪くも何ともないのですが、そうしたプロジェクトばかりを手掛けていると、中にはつまらないと感じて辞めちゃう社員も出てくる。だから、社内で「20%ルール」というものを設けて、仕事全体の少なくとも20%はこれまでやったことがないことや、チャレンジングな仕事に割り振るよう定めています。

中野氏 確かに「成長できる面白い仕事を提供できるかどうか」は重要だと思います。今回、プロジェクトをやってみて思ったのは、「システム投資は人に対する投資でもある」ということです。

 最新技術が実装されたシステムを使うことは、人材の価値向上に密接に関わってきますね。技術のトレンドを追ったり、デファクトスタンダードなプロダクトを使った業務を経験したりすることは、人材市場での価値の向上が見込めるだけでなく、仕事として楽しいですよね。人は楽しいと思える仕事をしていれば成長するし、面白い仕事があるところで働きたいし、何より辞めないでしょう?(笑)

 大事なのは“楽しくない作業”をなるべく減らすこと。システム間をExcelでつないだり、構造的に不安定なシステムのトラブルに対応したりというような「やらなければならないけれど、やらないで済むならそれに越したことがない作業」をなるべく減らしたい。手間をかけるならば、システムを使ってプロセスを磨くことに使いたい。

 システムにかかる費用より人件費の方が高いし、高くてしかるべきだと思うのですよね。欧米系の会社がシステムにお金をかけるのは、人材の流動性の高さやビジネスのスピード、展開範囲の広さもあると思いますが、単純に人件費が高いからじゃないかと思います。さらに、今後は労働人口が減っていくわけで、システムができる仕事を人がやってはいけないと思います。

 今回の私たちのプロジェクトは、最新技術を使ったシステムで課題を解決し、海外展開にも挑戦するという難易度の高い仕事です。このようなタフな仕事は成長も見込めるし、日々、それはもう、実にいろいろな問題が次から次へと起こって退屈しない。そんな高い壁を楽しめる人と一緒に働きたいですね。人を成長させるものでなければ、良い仕事、良いプロジェクトといえないのではないかと思います。

 以前から「ケンブリッジ(ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ)さんの方針で面白いと思っていたのが、「会社としての成長が見込める仕事なら小さな案件でも受ける」「大きな案件でも成長が見込めない案件なら断ることもある」と公言しているところですね。

白川氏 以前、とある大手SIerの情シス部長の方も同じようなことをおっしゃっていました。「既存システムの保守だけをやらせていると、メンバーがつまらなくなって異動したり退職したりしてしまうので、ケンブリッジさんとぜひ面白いことをやりたい」と。いろんな企業の情シス部長さんとお話ししていると、「いかに社員のモチベーションを高めるか」という点に皆さん苦労されているようです。その点、うちで行っている20%ルールは、企業の情シス部門でも有効に働くかもしれません。20%ぐらいなら既存の業務にも大きな影響は出ませんし、最悪、失敗したとしても何とかなりますから。

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