日本のCIOは「CxO四天王の中で最弱」? この状況はどうしたら変わるのかCIOへの道(5/5 ページ)

» 2018年08月20日 07時00分 公開
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コーポレート部門もスペシャリストとして評価されるべき

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中野氏 ちなみに、情シスはよく「コストセンターで収益に貢献していない」「コストセンターからプロフィットセンターへシフトすべし」などと言われたりしますけれど、個人的には全く同意できないですね。

白川氏 私も、IT部門をプロフィットセンター化する必要はないと考えています。

中野氏 以前、とある会社で露骨に「IT部門を含むコーポレート部門はコストセンターだから、地位も給料も低くていいよね」という謎の空気があって(笑)。私がシステム設計をする上で参考にしたグローバル企業では、IT部門はもちろん、人事や経理などのコーポレート部門の方々も、それぞれが自分たちのスペシャリティを武器にして、とても高いパフォーマンスを発揮しています。もちろん報酬水準も高い。そういう意味では日本企業のコーポレート部門はもうちょっと頑張らなければと思います。実力を付けてしかるべき評価と報酬を勝ち取る必要がある。

 変化の激しい時代には、人事、財務、法務それぞれに、よって立つ専門性を持つ人が集まり、広大な領域を厳しい制約条件の中で日々進んでいく必要があります。そのようなことは、優秀じゃないとできない。コーポレート機能は会社の背骨みたいなもので、大きい必要はないがしっかりしている必要がある。経営と会社の軸を支えるものだと思います。

 海外も含めた制度を作ってそれを運用するなんて、本当に難しい仕事だと思います。国レベルで人種も文化も違う人達の集まりを一つの方向に持っていくわけですから。それと、成果を出すにはシステムの素養も必要だと思っていて、データを使って仕事ができる必要がある。そうなるとハードルが非常に高い。Webサービスの世界は、エンジニアの給料がとても高いことで知られていますが、同時にコーポレート部門のようにスペシャリストとして働いている人もきちんと評価され、給与水準も上げるべきだと思います。

白川氏 会計的な観点では確かにコストセンターなんでしょうけど、「コストセンター」という呼称の中にITやコーポレート業務を軽んじるニュアンスが含まれるのは確かにおかしいですよね。

中野氏 あと「攻めのITか、守りのITか」という話もよく聞きますけど、これもどっちが良い悪いという話ではなくて、経営戦略から落とし込んだものが「攻め」ならば攻めればいいし、逆に経営の意思が「守り」なのであれば守ればいいだけの話だと思っています。システム投資戦略は経営戦略を実現するために行われるわけですから。

白川氏 確かにその通りですね。ただ、今、なぜ「攻めか守りか?」が話題に上がるかというと、放っておくと情シスはどうしても守りの方に偏りがちなので、そこを是正していきましょうという話なんだと思います。「バイモーダル」というキーワードも取り沙汰されていますが、攻めのチームと守りのチームを分けるという発想には個人的には賛成ですね。ただし、「第1情シス」「第2情シス」のように完全に別の部署に分ける必要はないと思っています。

 変革プロジェクトのようなものが立ち上がると、大抵は情シスから人が派遣されますから、このプロジェクトが攻めのチームで、情シス本体が守りのチーム、みたいな分け方でも構わないのではないでしょうか。

中野氏 実は以前いた会社で、情シスから攻めのチームを独立させて経営企画部の下に置いたことがあります。自分がやってみて分かったのは、こうやって企画・導入部門を組織体として完全に分けることには、メリットとデメリットがあるということです。どうしても組織同士の対立構造や縄張り争いのようなものが避けられなくなるし、会社が従業員の行動範囲を明確に規定してしまう影響もある。安易な組織の分離は、境界線を超えていくことが求められる情シスの仕事に“線を引いてしまう”危険性もある。そんな理由で、私も第2情シスのように組織をあえて分けることに対しては、どちらかというとネガティブです。

白川氏 プロジェクトのような形で「半固定」ぐらいがちょうどいいのかもしれませんね。

中野氏 そう思いますね。私も以前はSIerで、開発者としてプロジェクトベースで仕事をしていましたから、情シスの仕事に移った際、組織が完全に機能別に分かれていることに戸惑いました。やはり「攻めの部分はプロジェクト」「守りの部分は機能別組織」というように、ある程度、人の流動性を確保した分け方をしたほうがいいんでしょうね。仕事の評価をきちんとすることが前提にはなりますが。

白川氏 いずれにせよ、情シスはもうちょっとプロジェクトベースのやり方を取り入れた方がいいのではないかと私も思います。

中野氏 本当にそう思います。プロジェクトベースの仕事の進め方にはコツがあるので、ある程度、標準化しつつチームにノウハウとして蓄積できたらいいなぁと思います。これはケンブリッジさんが得意な分野ですね。

 実は、今回のプロジェクトと並行して、「やってみて良かった」と実感したことがあるんです。それは、他社のシステム部門の方との交流。これまでも、本を読んだり、セミナーに参加したりして情報収集はしていたのですが、他社の方にシステム構成を聞いたり、ノウハウを共有したりするような交流はほとんどしていなかったのですね。

 メーカーからWebサービス業界に移って新鮮だったのは、サービスサイドのエンジニアが積極的に勉強会やコミュニティー活動に参加していることでした。実際には採用目的が前提にあって婚活パーティーみたいな話も多いのですが(笑)それも含めてどんどん外に出て行くのは良いと思ったのですよ。市場価値を知るために相見積もり結構と。

 後、Webサービス業界は全般的にオープンな気質があって、結構ビジネスとして重要な情報もカジュアルに共有されている。それと、実は業界として狭いから、会社同士がお隣さんみたいな感覚もある。こうした背景から、「私達のようなエンタープライズ向けのシステム職でも似たようなことができるのではないか」と感じました。

 ちょうどWebサービス業界のシステム部門の人たちと交流する機会があったのですが、これが実にさまざまな学びがありました。話してみると、だいたいみんな同じようなところで困っているのですよね。それぞれ個別に対応していてノウハウがあるのに、その貴重な情報が共有されない。それで、同じシステムを入れて同じところでコケていたりする。なんてもったいないんだと。そして、なんとなくある孤独感。それぞれ少ない人数で広大な分野を見ていますから、同僚でも担当分野が違うと話が通じないことがあるんです。だったら、困ったこともノウハウも孤独も共有した方がいいなぁと思ったのです。

 そのときのシステム部門の仲間たちと、「情シスのつらさを飲みながら共有しようか」という、意識の低い動機(笑)から始めたコミュニティーがあるんです。名前もあえて高尚な感じにはしないで、「情シス互助会」と名付けて、ロゴもダサい感じで作りました(笑)。2017年から、Slack上でシステムの課題について話したり、イベントをやったりと、地味に活動していたのですが、それがいつの間にか結構な規模になっていたりするのですよ。「え? もう、メンバーが200人超えたの?」みたいな。実はシステム部門の人たちには、そういう場が必要だったんだと実感しました。

Photo slack上の情シス互助会。サービスデスク、セキュリティ、インフラなど、分野別のチャネルを用意している

 たとえ事業では競合であったとしても、私たちインハウスのシステム職まで競合しなければならない理由はないですよね。それよりもノウハウを共有して、少しでもいい仕事を効率よく楽しくやろうと思うのです。

 私自身も、もっと積極的にいろいろな方から話をお聞きたいし、もし、私の持っているノウハウが誰かの役に立つならどんどん共有していきたいと思っています。

Photo 公開対談のグラフィックレコーディング(作画:うじさかえる氏)

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