CSIRT小説「側線」 第6話:海にて(後編)CSIRT小説「側線」(3/3 ページ)

» 2018年08月24日 07時00分 公開
[笹木野ミドリITmedia]
前のページへ 1|2|3       
Photo 虎舞秀人:インシデントマネジャーの志路大河に引っ張られてCSIRTに加入。システム運用のことを熟知している。志路を神とあがめる。CSIRT全体統括とは馬が合わない。関西弁。イケメン

 メイと大武が、海岸からあがってきた。

 それを見た大山は、用意してあった魚をさばくための出刃包丁を黙って片付けた。

 潤とつたえ、虎舞もビーチからあがってきた。

 志路、見極、折衷、宣託が一斉に虎舞を見つめる。みな、優しい顔をしている。

 山賀がすすすっと虎舞に近寄って耳元で言う。

 「おじゃまむし」

 虎舞が言う。

 「ちゃうちゃう、ちゃうで。皆勘違いしとる。俺かてそんなことくらい分かるわ。2人を追っかけたんはな……この前、潤が独りで謝っとった時、後ろのつたえを見て不思議な感じがしたんや。せやから俺は、『潤、おまえ、何か隠してへんか』って聞きに行った訳や。けど潤は『あれは俺の独断でやった』の一点張りや。そこから先はあえて聞かへんかった。『まぁ、あまり気にすんな』とだけ言うて、それからは2人と別れて砂浜のおねえちゃん観察しとったわ。ホンマや」

 山賀はそうなんだろうなと思って、虎舞に対して微笑んだ。

 「それより、もう腹ぺこや、食べよか」

 虎舞の一言で肉の祭りが始まった。


Photo 羽生つたえ:前任のPoCの異動に伴ってスタッフ部門から異動した。慌ててばかりで不正確な情報を伝えるため、いつもCSIRT全体統括に叱られている。CSIRT全体統括がカッコイイと思い、憧れている

 バーベキューの食材はほぼ無くなった。

 腹も気持ちも満たされたらしく、リラックスした雰囲気に包まれている。

 男たちはまた、酒を飲み出した。

 メイはまだ自分がビーチに出ていないことに気づいた。

 「つたえ、せっかくだから、一緒にビーチいこう」

 「はい、メイ様」

 「ちょっと着替えてくるね」

 メイは更衣室に入って、しばらくしてから出て来た。

 ブルーのビキニにつつまれた肌が傾きかけた日差しを反射する。

 2人はビーチに向かって降りていった。


 「撤収!」

 大河内の号令で後片付けが始まった。

 皆手際がよく、あっというまに片付いた。

 タクシーが来た。

 来た時とは少し組み合わせが違っていた。

1号車「見極、虎舞、潤、つたえ」

2号車「志路、宣託、メイ、深淵」

3号車「山賀、大山、折衷」

 「あれ、大河内さんは乗らないんですか?」

 メイが尋ねる。

 「俺っちのウチ、この近くだから歩いて帰る。それと山賀ちゃん。次とその次のイベント、秋と冬。さっきサーフ・マツカータのオーナーと決めてきたから、あとはよろしく」

 ――やっぱり。そんなことだろうと思った。まったくせっかちで困るわ。そう思いながらも言った。

 「任せといて」

 タクシーは駅に向かう。適度に揺れる車内が眠気を誘う。

 後部座席シート真ん中に座ったメイのほてった足が大武に触れる。

 目をつぶっている大武の赤い顔は、釣りで日焼けしたせいだけではないのだろう。

 強かった日差しが柔らかくなり、夕日を吸い取った海面がきらきらとオレンジ色に光っている。

【第6話 完:第7話(前編)に続く】

Photo CSIRT小説「側線」 人物相関図

イラスト:にしかわたく

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ